ワーグナー さまよえるオランダ人(コンサート形式上演)
指揮 ダーヴィト・アフカム
合唱 東京オペラシンガーズ
コンサート形式上演方式のメリットが最大限に発揮された歌の饗宴。
私は、舞台上演(演出付き)とコンサート形式上演なら、文句なく舞台上演の方を望む人間だが、これほど演出の必要性を感じさせない公演も珍しい。
演出の不存在を補うために、背景のスクリーンにイメージ映像を写して進行させているが、それでも舞台という形はほとんど見えない。そして、そのことに何の物足りなさも感じない。
舞台の形は見えなくとも、出演歌手が歌で登場人物の心情を切々と語るため、物語そのものは鮮明に描写される。
つまり、イメージ映像なんかいらなかった。それだけ出演歌手が素晴らしかったということ。それに尽きる。
B・ターフェル、R・メルベート、P・ザイフェルト、彼らの歌唱芸術について、何か美しく形容できるような称賛の言葉を探そうとしたが、やっぱり「素晴らしい」しか思い当たらない。
D・アフカムの指揮についてだが、最初は、豪華な歌手が集ったガラ・コンサートの、いかにも伴奏のような下支えの感じがした。
ところが、じっくり聴いてみれば、オーケストラを自在に操っていることがすぐに判明。劇的な迫力にも申し分がなく、聴き手を安心して音楽に集中させ、陶酔を味わせてくれたのは、やっぱり指揮者の功績だろう。
彼の弾きぶりは、オーケストラの規範そのもの。まるでスピーカーのように、全体の音が彼から出現しているかのよう。
なんだかんだ言っても、長年に渡ってウィーンでワーグナーを演奏してきた経験とプライドはだてじゃない。