クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1990/11/25 ニュルンベルクのマイスタージンガー

日頃のコンサート鑑賞記の合間になってしまう都合上、間が空いてしまいましたが、すみません、昔の旅行記シリーズ「1990年ウィーンの旅」、まだ終わってません(笑)。
今回を含めてあと4回の予定です。不定期のアップですが、気長にお付き合いくださいませ。


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1990年11月25日  ウィーン国立歌劇場
ワーグナー  ニュルンベルクのマイスタージンガー
指揮  サー・コリン・デイヴィス
演出  オットー・シェンク
ジョセ・ファン・ダム(ザックス)、ルネ・コロ(ワルター)、ゴットフリート・ホルニック(ベックメッサー)、ウィンフリード・ガームリッヒ(ダーヴィッド)、ルチア・ポップエヴァ)、ロハンギッツ・ヤヒミ(マッダレーネ)   他


自分が鑑賞したコンサート・オペラについて記録しているMyデータベースで調べたら、これまでにワーグナーのオペラを合計121回観ていることが分かった。
(※舞台上演のみ、コンサート形式を除く。リングは1回ではなく4回とカウント。)
自分自身は生粋のワグネリアンだとは思っていないし、筋金入りの連中からすれば大したことないかもしれないが、それでも我ながら結構な回数だなと思う。マニアではないが、ワーグナー好きであることは間違いない。
その栄えある第1号、初めての劇場でのワーグナー鑑賞体験が本公演、天下のウィーン国立歌劇場なのであった。

最初が「タンホイザー」でも「トリスタン」でも「ローエングリン」でもなく、「マイスター」だったというのは、当時、誇らしかった。この頃はまだオペラ初心者だったが、「マイスター」はワーグナーの中では「中級から上級者向け」と思い込んでいたので、なんとなく自分のグレードが一つ上がった気がして、嬉しかったのである。

それに、この2年前、バイエルン州立歌劇場の来日公演で最強キャストの「マイスター」を聴き逃し、「クソー、しまった!」という後悔もあった。
本格的なワーグナー上演を行う一流の「ウィーン国立歌劇場」なら、その悔しさを払拭する機会として申し分なし。十分にリベンジを果たせると思ったのだ。


初めてのワーグナー・オペラは凄かった。「凄いという体験を味わえればいいな」と期待して臨んだら、実際にそうなった。
圧倒されたのは、そのスケールの大きさだ。
あたかも大海の中に放り込まれ、一気に包み込まれたかのような感覚。
あるいは、滔々と流れる音楽、重厚な響きの圧力によって、どーっと押し流される、みたいな。

指揮がコリン・デイヴィスというのも、良かった。
バイエルン放送響やシュターツカペレ・ドレスデン、ロンドン響といった名門オケの指揮者として活躍し、これらを率いてたびたび来日していた巨匠。このため日本では、コンサート指揮者としての認知度が高い。しかし、かつてロイヤル・オペラ・ハウスの首席指揮者も務めていたし、イギリス人として初めてバイロイト音楽祭に出演した指揮者でもある。初めてウィーンでオペラ・コンサートを鑑賞する旅行で、実績があって、ネームバリューがあって、十分に相応しい名指揮者の演奏を聴けたという満足感は大きかった。

ただ、大きな衝撃を受けた理由が、指揮者デイヴィスの導きの成果なのか、それともワーグナー作品の潜在力なのか、当時はよく分からなかった。
たぶん、「要するにこれがワーグナー」ということなのだろう。みんなこの底知れぬパワーにハマり、のめり込んでいくわけだね。


演出がオットー・シェンクというのも、良かった。
この時シュターツオーパーで観た二つのオペラ、ボエームとマイスタージンガー
これらの演出が、一つがゼッフィレッリで、一つがシェンクだったというのは、たまたま偶然だったが、実に象徴的である。
両方共にいわゆるオーソドックスタイプ。重厚かつ豪華、写実的で、こだわりの美意識に彩られたセット。「オペラの舞台って、美しい!」と思った。
同時に、ウィーン国立歌劇場の格式の重みをひしひしと感じた。「世界最高の劇場の舞台というのはこういうものか」と思い知らされた。


このシェンク版マイスタージンガーは、長年にわたって上演が続き、重要なレパートリーとして国立歌劇場を支えてきた。それはシュターツオーパーの伝統そのものだった。
その伝統に終止符が打たれる。
今年12月、シェンク版は幕を閉じ、新演出に取って代わる。(K・ウォーナーが手掛ける)
新たな舞台がどんなものになるのか分からないが、いずれにしても私はオットー・シェンクの舞台を現地で観ることが出来て、本当に良かったと思っている。
(ちなみに、バージョンは違うが、シェンクはメトロポリタンオペラでもマイスタージンガーを手掛けていて、こちらの方はまだロングランが続いている。私はウィーン版とメト版の両方を現地で観ることが出来た。)


歌手について。
大いに期待していたザックスのダムは、元々声量で圧倒するタイプではないからだと思うが、ちょっと真面目で堅くて渋かった印象。
コロやポップも良かったが、何を隠そう一番強い印象を残してくれたのは、ベックメッサー役のホルニック。一癖あるような演技と歌い回しが絶品だった。
今思うと、ベックメッサーという役自体が強い印象を残してくれる濃いキャラで、そこにハマったような気がしないでもないが・・・まあでも、絶品として記憶に残っているのだから、それでいい。きっとそうだったのだ。

いずれにしても、本公演は、個々の歌手というより、そびえるかのようなワーグナーの楽劇そのものに完全にやられた。ここから私の「ワーグナーの道」がスタート。その第一歩の記念すべき公演であった。