指揮 ウラディーミル・ユロフスキ
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)
肘の故障明けということなので、やむを得ない。むしろ、キャンセルせずによく来日して演奏してくれたと思う。
人気と実力を兼ね備えた名ピアニストだが、これまでに2回彼の演奏を聴いて、どういうわけか私はあまり高評価できずにいる。「おぬしが推す世界のトップピアニストを挙げよ」と言われても、たぶん両手両足の全部の指を駆使しても挙がらないと思う。
良くないとか言うつもりはないのだが、なんだか印象が薄い、インパクトが弱い感じなのだ。
なぜだろうか。弾き方が妙に落ち着いているからだろうか。
たった2回ではアンスネスのピアニズムの本質を掴めなかったのかもしれない。だからこその今回だったが、モーツァルトに変わってしまい、無難にお茶を濁されて、結局評価を押し上げることができなかった。また次の機会を待つこととしよう。
さて、ユロフスキ、待望の二度目の来日公演。この指揮者は注目である。
日本でどれくらい知名度があるのかは知らないが、P・ジョルダン、G・ドゥダメル、A・アルティノグリュ、T・ソヒエフなどと並ぶ、これからのクラシック界をリードする逸材であることに、私は疑いを挟まない。何と言っても、K・ペトレンコの後釜としてバイエルン州立歌劇場の音楽総監督就任が決まっているのだ。期待せずにいられようか。
この日のメイン、マラ1でも、彼の卓越した音楽作りとオーケストラ・リーディングは随所に見られた。
特筆すべきは、スコアのすべての音を整然と鳴らしきっていたことだ。これほどすべての楽器の旋律が聴こえた演奏は、ちょっと記憶にない。
すべての旋律が聴こえると、オーケストラ音楽というのはいかに有機的に絡み合っているか、というのを思い知る。その際、バランスは絶対に崩せないし、濁ったハーモニーを看過することも出来ない。何よりも奏者たちに「この指揮者なら、自分が出した音を絶対に守ってくれる」と信じさせなければならない。その信頼関係の構築までしっかりと見えた演奏だったのだ。まだ若いのに、なんと頼もしいことか。
ベルリン放響だったというのに、なぜかオペラに思いを馳せ、今後に期待を寄せてしまったコンサート。また一つ、これからミュンヘンに行く楽しみが出来た(笑)。
【訂正】
「これまでにアンスネスの演奏を2回聴いて」と上の記事に書いたが、その後、改めて調べてみたら、実は2回じゃなくて過去に4回聴いていて、今回が5回目だった。つまり、記憶から完全に消えているのが2回あったということだ。