クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2023/7/7 戦争と平和

2023年7月7日   バイエルン州立歌劇場
ミュンヘン・オペラ・フェスティバル》
プロコフィエフ   戦争と平和
指揮  ウラディーミル・ユロフスキ
演出  ディミートリ・チェルニャコフ
アンドレイ・ジリコフスキー(アンドレイ)、オリガ・クルチュンスカ(ナターシャ)、アルセン・ソゴモニアン(ピエール・ベズーホフ)、ディミートリ・チェブリコフ(デニーソフ大佐)、ディミートリ・ウリャノフ(クトゥーゾフ元帥)、ヴィクトリア・カルカチェヴァ(エレン)、ヴィオレッタ・ウルマーナ(マリア・アフローシモワ)、トーマス・トマッソン(ナポレオン)、セルゲイ・レイフェルクス(ボルコンスキー公爵)、オリガ・グリャコーワ(マダム・ペロンスカヤ)、アレクサンダー・テリガ(ロストフ伯爵)    他


ようやくこのオペラを観ることが出来た! 2003年のサンクト・ペテルブルク・マリインスキー劇場来日公演以来、20年ぶり。(この時の指揮は、プーチンの盟友である「G」) 今回、やっと2度目だ。

なかなか上演されない理由は、単純明快。ロシア語オペラであること、それから膨大な出演者を要すること。お金がかかるオペラなのだ。そりゃ難しいわなぁ。

「これはもうロシアに行って観るしかない。モスクワとかサンクト・ペテルブルクに行く機会があれば、ぜひともこのオペラを観たいものだ。」
長年の密かな願望だったが・・・現状下、その願いはもう叶わないだろう。

そうした中での、このバイエルンの上演。
これこそ千載一遇の機会! これを逃す手は無い!
今回の7月旅行は、この公演を見つけたことで実現化したようなもの。だから、劇場に向かう道のりは、ウキウキワクワクだった。


プロダクションは、2022-23シーズンの新演出演目の一つで、今年の2月がプレミエだった。
バイエルン州立歌劇場の場合、新演出オペラを上演すると、シーズンの締めくくりに行われる「オペラ・フェスティバル」で、もう一度再演するパターンを取る。なので、最初から7月に狙いを定めていた。


指揮は歌劇場音楽監督のユロフスキ。
18歳でドイツに移住しているが、生まれはモスクワ。なので、偶然とはいえ、この時期このタイミングでこの作品を採り上げることについては、やはり思うところ、期すところがあったのではないだろうか。少なくとも無感情、他人事でいることは出来ないだろう。
(ちなみに、ロシアがウクライナに侵攻した際、多くのロシア出身の音楽家たちが「この侵略戦争に賛成か反対か」という意思表明の踏み絵を迫られたが、ユロフスキは明確に反対の立場を取ったのであった。)

1回の休憩を挟み、およそ4時間の長大なオペラであるが、ユロフスキは最初から最後まで緩むことなく、どんな些細な音にも目配せし、高揚感を持って壮大な音楽の構築を創出していた。あたかも音の絵巻物のようであり、本当に素晴らしかった。

指揮者によっては、音楽のメリハリは作りつつ、流れや進行自体は歌手やオーケストラに委ね、自発性を促しながら泰然と構える人がいる。年配のベテラン指揮者たちにそうした一例が見られる。
これに対し、次世代の指揮者たちは、若いせいで運動神経がよく、十分にタクトが行き届くため、すべての音のコントロールに余念がなく、繊細かつ丁寧に振る人が多い。前日のリーニフもそうだったし、つい先日東京で聴いたM・マリオッティなんかもそう。
まあ、一概にどっちがいいとか正しいとかは言えないが、「音楽を作り、オペラを能動的に動かしているのは指揮者」と改めて感じるのは、後者の方。


演出は、チェルニャコフ。訳のわからないベルリン州立歌劇場の「ニーベルングの指環」新演出を担当した、アイツだ。
ウキウキワクワクの期待感の中で、唯一不安だったのがこの演出。作品の本質を極めるのではなく、いかに作品の本質から遠くへ飛ばせるかに主眼を置く、実に困ったちゃんな演出家、チェルニャコフ。

舞台は、架空だかどこかだかの劇場内のロビーまたは客席。その座席を取っ払った広間に大勢の民衆が身を寄せ合うかのように寝泊まりしている。
これ、戦争最中の空襲避難場所そのもの。トルストイの物語と現代における戦時下状況をリンクさせていることは明白。
ただし、戦争そのものはリアルに描写せず、ナポレオン率いるフランス軍は、避難民による寸劇みたいな形で表現していて、演出家の独自視点が発揮された創意工夫が施されている。

突拍子もない過激な読替演出ではなく、その点はホッとしたが、最初から最後まで舞台装置が「劇場内」で変わらなかったことで、見た目のスペクタクル性はあまりない。もちろん、その分、群衆や登場人物の動きを細かく振り付けているのはさすがというところ。


歌手は、当然ロシア系の人が多数を占める中、チラホラと知名度のある歌手も登場。
総合的に高レベルだったのは、やはりバイエルン州立歌劇場という一流劇場の格がモノを言っている感じがした。