クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2018/9/8 二期会 三部作

2018年9月8日   二期会     新国立劇場オペラパレス
プッチーニ  三部作「外套」「修道女アンジェリカ」「ジャンニ・スキッキ」
演出  ダミアーノ・ミキエレット
上江隼人(ミケーレ、ジャンニ・スキッキ)、北原瑠美(ジョルジェッタ、アンジェリカ)、樋口達哉(ルイージ)、中島郁子(公爵夫人、ツィータ)、新垣有希子(ジェノヴィエッファ、ラウレッタ)、新海康仁(リヌッチョ)   他
 
 
何年か前、アン・デア・ウィーン劇場の年間プログラムの中でこのプロダクションを見つけた時、「行きてぇ~」と思った。
結局行けなくてがっかりしたが、数年後にこうして日本で鑑賞できたのは、なんだか不思議な気分であり、観られて良かったという満足感がある。
 
ウィーン公演は、私の記憶に間違いがなければ、当初の予定指揮者はK・ペトレンコで、その後、確か変更になったような気がする。キャスティング歌手については、全然覚えていない。
いずれにしても私がその公演に行きたいと思った大きな要因、魅力は、ペトレンコではなく、「三部作」という作品そのものであった。
 
トスカ、ボエーム、トゥーランドットもいいが、「三部作」はこれらに決して劣らない素晴らしい作品だと確信している。特に「修道女アンジェリカ」は隠れた傑作だ。私は事あるごとにこの曲の神秘的な美しさを称賛してきているし、大好きであることを公言して憚らない。
だから、色々な人が公演後にSNS等で「アンジェリカ、すごくいい音楽だった!」と呟いているのを見つけると、なんだかとても嬉しくなる。
この日も、アンジェリカが終わって休憩に入り、ロビーに出た瞬間に知り合いにばったり会って、その人が「すっげーいい曲だね!」と話すので、「でっっっしょーー!?」とアンジェリカ愛を唾飛ばして語ってしまった。ちょっと熱く語りすぎたかなと、今になって反省しとるのだが・・。
 
ミキエレットの演出も、実に素晴らしい。やっぱりこの演出家、天才だと思う。
事前に氏が自らの演出プランを「一つのストーリーに感じられるようにコンセプトした」と紹介する記事を目にした時は、少々心配になった。
三作はまったくの別物語。「無理やり三つを一つにしなくてもいいんだけどなー」ってな感じである。こじつけは良くない。しかも、こじつけこそ現代演出にいかにもありがちな袋小路パターンなのだ。
 
だが、ミキエレットは違った。氏のコンセプトには全然こじつけ感がなかった。実にさり気なく、三作を結びつけている。繋がり方が自然なのだ。
なぜミケーレ役とジャンニ・スキッキ役、それからジョルジェッタ役とアンジェリカ役を担うのが同じ歌手なのか、合点がいった。そういうことなのか、と。
物語に、大切な人の喪失による心の傷というのを浮かび上がらせ、それを「その人が履いていた靴」に象徴させることで、共通点を作り出していた。そのアイデアと手法は鮮やかとしか言いようがない。
 
出演の各歌手たちが、一生懸命に役を演じているのも、とても良かった。
演技が実に丹念だ。
日本のオペラ歌手って、なんか演技がぎこちなく、わざとらしいのが玉に瑕なのだが、今回はリアルで、そのリアルさに人間味が溢れていた。本当に役者だった。
もちろんそのように仕立て上げた演出チームの力なのかもしれないが。
ぶらあぼ」ウェブ版にそれぞれの役について出演歌手が語るページがあって、それを読むと、どの歌手も、たとえちょい役であってもきちんと役を分析し、自分らしい役作りを考えているのがわかる。
日本人はよく「指示待ち」「言われたとおりにやるが、自分で考えて出来ない」などと陰口叩かれるが、「ああ、この人たちきちんと考えている」と感心した。そこらへんは、皆さんさすがプロだ。
 
指揮者ド・ビリー、私はこれまで彼が振ったオペラを今回除き4公演観ているが、いずれもなんかぱっとしない印象だった。
だが、今回は良かった。
歌手に寄り添っている感じが強く出ていて、作品に対する愛が感じられた。出演歌手の皆さんは、こういう音楽に支えられたら、さぞ歌っていて気持ちいいでしょうと思った。
 
歌手に対する寄り添いと、作品に対する愛。これらはオペラ指揮者の必需品だ。肝と言ってもいい。
なんだド・ビリー、持ってるんじゃん。
ちょっと見直した。
(ちょっとかよ・・)