2021年10月28日 ラファウ・ブレハッチ ピアノリサイタル 東京オペラシティコンサートホール
バッハ パルティータ第2番
ベートーヴェン ピアノソナタ第5番、創作主題による32の変奏曲
フランク 前奏曲、フーガと変奏曲
ショパン ピアノソナタ第3番
紹介するまでもなく、ブレハッチは、ショパンの祖国ポーランドの生まれであり、なおかつショパン国際コンクールの覇者である。世界中のファンが彼のショパンを聴きたいと思っている。そして、きっと世間的に「ショパン弾き」だと思われている。
本人はどう思っているのだろう。ポーランド人である以上、宿命として受け止めているのだろうか。
多分、「ショパン弾き」ではなく「一ピアニスト」として活躍したいと思っているはずだが、果たしてどうだろうか。
今回、彼が用意したプログラムには、前半にバッハ、ベートーヴェンの作品が並んだ。当然、一ピアニストとして作品に向き合い、「ブレハッチのバッハ」、「ブレハッチのベートーヴェン」をしっかり聴かせたいと意気込んだはずである。
ところが、すべての演奏を聴き終えて一番良かったのは、ショパンのソナタなのであった。段違いに良かった。結局というか、やっぱりというか。
もちろん前半プロとメインプロの差、傾ける力の配分の違いなどはあろう。
そうした点を加味したとしても、ショパンの方が断然良かった。
逆に言えば、バッハとベートーヴェンは、少々物足りなかった。
おそらく、日ごろから聴き馴染んでいるバッハやベートーヴェンの権威ピアニストの演奏と、無意識のうちに比較してしまったのだと思う。多様な演奏、解釈を受け入れるべきで、こちらとしても反省すべき点はある。そういう場合は「好みの問題」にしてしまって、仕方がないと片付けることにしているが。
ブレハッチは、旋律を大切にし、洗練されたタッチで、柔らかく繊細に演奏するスタイルが特長だ。
で、そうしたスタイルが見事に活き、マッチする作品というのが、ショパンなのだと思う。あとはシューマンとか。
本人がショパンのスペシャリストとしてやっていきたいのなら話は別だが、今回のプログラムを見れば、きっとそうではないはず。
ならば、もう少し経験を積みながら、腕を磨いていくしかないだろう。
ショパンコンクールの覇者だからといって、必ずしも世界的な一流ピアニストになれるわけではない。現に過去の優勝者でも、日本で一大ブームを巻き起こしながら「あの人は今」状態になっているロシア人とか、忘れていたら、つい最近スキャンダルニュースが出て思い出した中国人とか、様々だ。進むべき道を着実に歩んでいるつもりでも、いつの間にか方向が狂ってしまうかもしれない、難しい世界。
そうした時、ブレハッチには目標となる先輩がいる。言わずとしれたツィメルマンである。
ツィメルマンは、ポーランド人ではあるが、今、彼のことを「ショパン弾き」とは誰も言わない。それは、ツィメルマンがそういう実力を磨いてきたからだ。
で、そのツィメルマンが来日する。なんと、発表されたプログラムで、バッハのパルティータ第2番とショパンのソナタ3番が、ちゃっかりかぶっている。
日ごろ「比較は良くない」と思っているが、今回だけは悪いけど思いっ切り比較してしまおう。
むしろ、そうすることで、「ブレハッチの課題」と「ツィメルマンが築いてきたもの」の両方が見えてくるだろうから。