2021年12月8日 クリスティアン・ツィメルマン ピアノリサイタル サントリーホール
バッハ パルティータ第1番、第2番
ブラームス 3つの間奏曲
ショパン ピアノソナタ第3番
2か月前の10月、ラファウ・ブレハッチの来日リサイタルを聴き、その感想をブログに綴った。
その時、「2か月後に開催されるツィメルマンのリサイタルと是非比較をしてみたい」と書き、記事を締めた。
同じポーランド人であり、共にショパン国際コンクールの覇者であるという先輩後輩の間柄。
しかも、たまたまプログラムにバッハのパルティータ2番とショパンのピアノソナタ第3番が被るという偶然。
ならば、これらを比較することで、ブレハッチ、ツィメルマンそれぞれの現在の立ち位置がきっと見えてくるだろうと睨んだからだ。
非常に興味深い結果が出た。
二人ともプログラムの最初にバッハを出し、最後にソナタ3番と並べたわけだが、全体を通しての感想で、ブレハッチは「ショパンが最高」、ツィメルマンは「バッハが最高」だった。
もちろん、これはあくまでも私の個人的な印象であるが。
通常、大抵の場合、全体の中でメインのプログラムに圧倒的な感銘を覚える。これは、別にリサイタルに限らない。コース料理においてメインディッシュが頂点なのだから、当然といえば当然だ。
だというのに、私はツィメルマンの演奏で、バッハに心を揺さぶられた。
1番2番それぞれにおいて調性の統一が図られてあるにも関わらず、各曲が万華鏡のごとく変化し、鮮やかに、かつ生き物のように躍動。グールドやアルゲリッチのようなスリリングさはないが、動きも表現もすべてが巧みに完ぺきにコントロールされていて、これぞツィメルマンの芸術だった。
一方、ショパンに関して、素晴らしいのはもちろんなのだが、何というか、出来上がってしまっており、新着ではなく既製品になっている感じがした。
この点、ブレハッチは発展、未来を予感させる演奏だった。
面白い! ちゃんとブレハッチとツィメルマンそれぞれの立ち位置がくっきりと浮かび上がったではないか!
それにしてもツィメルマン、若かりし頃は「ピアノ界の貴公子」などと言われていたが、今や「孤高の芸術家」たる風貌と風格を備えるまでになった。年月が彼を熟成させていったのだ。
もはや誰も彼のことを「ショパン弾き」とは言わない。この日のバッハは素晴らしかったし、ブラームスも良かったし、きっとベートーヴェンだって最高だろう。
やはりブレハッチの目指すところは、この先輩の道であるべきだ。