クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2018/2/9 パリ

お待たせしました。今回もまたトラブル遭遇レポートです(笑)。
 
それにしても、どうして私の旅行はこうも毎回災難続きなのだろうか。
もはや恒例行事。この際自分の旅行のことを自虐的に「トラブル・トラベル」と呼んでしまおう(しゃれにもならん)。まったくよ。
 
今回のトラブルの元凶は、「雪」。
 
雪はやべーよな。日本でも、今年は日本海側を中心に大変なことになっている。東京など都会はちょっと降っただけでも、もろにダメージを受ける。パリも同様ってこった。
 
実は、嫌な予感はしていたんだ。不安は抱えていたんだ。
 
ハンブルク入りの前日である7日、パリに数十年ぶりだという大雪が降った。エッフェル塔などの観光機関が営業中止となり、交通などに大きな支障が出たというニュースを見た。
「いや危なかった。日程的にうまくずれてよかったわい。」と胸を撫でおろしていたのだが、パリに移動する9日、再び雪の予報が出てしまった。
前日夜、ハンブルク州立歌劇場で「ルル」を観終えた直後、ケータイをネットに繋げたら、エールフランスから警報メールが届いていた。フライトスケジュールが乱れる可能性が高いので、注意してほしい、最新の情報を確認してほしい、という内容だった。
 
うーん、困った。
遅延ならまだいい。頼むから、お願いだから、キャンセルだけは勘弁してほしい。
なぜなら、私にとっての今回の旅行のハイライトが、パリに移動したその日の夜に鑑賞するシャンゼリゼ劇場での「カルメル派修道女の会話」だったからだ。
 
「もしキャンセルになったら、急遽ブリュッセル行きのフライトチケットを買い、そこからタリス(フランスの国際新幹線)を使ってパリに向かうか・・・。」
夜ベッドに入り、そんなことをぼーっと考えていたら、なかなか寝付けなかった。
 
翌朝。
不安を抱えながらハンブルク国際空港に向かった。
フライトスケジュールをモニターで確認すると、エールフランス便パリ行きは、予定通りのオン・スケジュール。遅延もなし。
少々拍子抜けだったが、午前11時20分、無事にパリ・シャルル・ド・ゴール空港に到着した。パリの天気は、予報どおりまさに「雪」だった。
 
いやー、無事に到着してよかった。飛行機という乗り物は雪に弱い。よくまあ遅延もなくここに来られたもんだ。
 
ここまで来たらもうこっちのもの。雪は相当降っているが、大丈夫、市内までどうにか行けるだろう。
実際、空港とパリ市内中心部を結ぶ直通の近郊電車RERは普通に動いている。足止めを食っている様子はない。
よしよし、オッケー、のはずだった・・・。
 
正午ちょうど。
シャルル・ド・ゴール空港駅を出発したRERは、雪の影響で、一つ進むと次の駅で2、3分くらい停車、のパターンを繰り返しながら、ゆっくりゆっくりパリ中心部に向かっていた。
 
その電車が止まってしまった。
4つ目だか5つ目だかの停車駅で、トラブルが発生。10分、20分、電車はまったく動かない。
 
フランス語の車内放送が流れた。乗客たちがため息をつき、一斉にホームに降りだした。一方、言葉を理解しない外国人旅行客は、訳がわからぬまま、黙って彼らの後を追う。
 
電車がその先へと向かわないのは、もう明白だった。
 
駅のホームで繰り返し放送されるフランス語アナウンス。こうした時、仕方がないことかもしれないが、英語でのインフォメーションは皆無となる。
 
私は付近の人々に助けを求めるため、大きな声を上げた。
「だれか英語を話す人はいませんか? 英語で情報をくれる人はいませんか?」
 
近くにいた親切なフランス人(だと思う)が、英語で丁寧に説明してくれた。
「どうやらこの先の駅で、大雪の影響で、何か技術的トラブル(故障)を起こしたらしいです。従って、運行が完全に停止されました。復旧の見込みは、午後3時だそうです・・・。」
 
午後3時・・。
現在時刻は12時20分。てことは、あと2時間半以上!
「バスとか、何か代替手段はないのでしょうか?」
「さあ・・。電車を諦め、この駅から外に出て、タクシーで向かうという方法はあるでしょうね。」
 
雪が舞う極寒のプラットホームは人で溢れ、騒然としていた。
呆然と立ち尽くす人、慌ただしく携帯で電話する人、駅の係員を取り囲む人、憤然と駅から飛び出していく人・・・。
 
私は・・・私はどうしていいか分からず、ただただ困惑しながらホームで佇んでいた。
 
選択肢はほとんどないと言っていいだろう。
タクシー?
ばか言うなって。
状況を英語で教えてくれた人は確かにそう言っていたさ。でもそんなこと出来るわけない。
例えば、日本で、大雪で交通機関が麻痺している中、電車が止まってしまい、人が溢れる小さなローカル駅で、言葉を話せない外国人がタクシーを拾ったり呼んだり出来ると思うか?
中学生程度なら(ちょっと賢い小学生でも)分かる答えである。
(最近評判のUberだったら、果たしてどうだろうかね)
 
私は待つことに決めた。実際、多くの他の乗客もそれを選択しているようだった。
 
どうせ予定の午後3時に復旧することはないだろう。ここは日本じゃない。何事においても予定どおりにならない超ダメダメな国、フランスなんだ。オレ、まったく信頼してねえから。
 
私は冷静に自分に言い聞かせた。
別に3時間でも4時間でも待たされたって構わない。午後のすべての時間が潰れたって構わない。
午後7時30分開演のオペラに間に合いさえすればいい。それだけだ。オペラに間に合ってくれさえすれば、私はすべてを許そう。
 
ランチにありつけずお腹が空いてきたが、ここは我慢だ。持参のチョコを口に入れて耐え忍ぶ。ホームは寒いが、幸い防寒対策に不足はない。
 
やがて、後続の別の電車がホームに入ってきた。当然だが、その電車も完全ストップ。たまらずにホームに降り出てくる人々。
だが、私はその電車にそそくさと乗り込む。人が乗っている車内の方が暖かいに決まっている。座席は完全に埋まっているが、自分のキャリーバッグの上に座れば、問題がなかった。
 
暇つぶしに持参した本のページをめくってみたり、音楽を聴いてみたりした。だが、どうにも続かなかった。本を読んだり音楽を聴いたりするのは、心が落ち着いている時にこそできること。不安を抱えながらでは、楽しめるわけがないのである。
 
それにしても、我々は到着組だからまだいい。もしこれが出発組で空港に向かっている途中だったら、最悪だろう。
実際、そういう人たちはいったいどうしているのだろうか。何か代替手段が用意されたのだろうか。
ツイッターのタイムラインに何か出ているかを探したが、さすがに日本語で検索しても何も出てこなかった。そりゃそうだよな。
 
1時間、2時間、そして復旧予定の午後3時・・電車が動く気配はなし。
確かな情報もないまま、ただひたすらじっと待つというのは、なんと辛いことか・・。
 
午後3時50分、ついに待ちに待ったその時が訪れた。
車内放送が流れた瞬間、人々が一斉に電車を飛び出し、隣のホームに移動し始めた。復旧の朗報アナウンスだ。
 
パリ市内に向かう電車が到着した。
ホームに溢れていた人たちが我こそはとばかりに車内に駆け込んだ。あっという間にギューギュー詰め、すし詰め状態になった。東京の通勤ラッシュ並みの大混雑。
だが、人々の顔は、みな安堵で明るかった。車内で大きな声で何か冗談を言っている人がいて、乗車している周りの人たちが一斉に笑った。
フランス語はちんぷんかんぷんだが、私もなんだかつられて笑ってしまった。
 
午後5時、ようやくホテルの最寄りの地下鉄駅に到着。あれだけ降っていた雪は、なんと止んでいた。お惣菜店で食料を買い込み、午後5時15分、ホテルにチェックイン。
 
空港からホテルまで5時間以上・・・。恐ろしい。
 
だが、上に書いたとおり、私は怒りを完全に封印し、すべてを許した。
楽しみなオペラに間に合ったのだ。もうそれだけで十分なのさ。