クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2018/2/9 カルメル派修道女の対話

2018年2月9日   シャンゼリゼ劇場
プーランク  カルメル派修道女の会話
指揮  ジェレミー・ローレル
演出  オリヴィエ・ピー
パトリシア・プティボン(ブランシュ)、ソフィー・コッシュ(マリー修道女長)、ヴェロニク・ジャンス(リドワーヌ修道院長)、サビーヌ・ドゥヴィエル(コンスタンス)、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(クロワッシー修道院長)   他
 
 
「たとえ電車が大幅に遅延しても、どんなに待たされても、このオペラを観ることが出来るのならすべてを許す。なぜなら、これが今回の旅行のハイライトだから・・・。」
 
前回の記事で、私はそう書いた。
 
主役級に配された上記歌手たちの錚々たる名前をご覧になってほしい。オペラのことを知っている人なら、私の言っている意味が分かるはずだ。
世界で活躍するフランスのトップ級歌手。彼女たちが、母国で、母国の言語で、母国の作曲家の作品を歌う。しかも、その作品「カルメリティ・ダイヤログ」は私の大好きな曲。
これは、本当に本当に楽しみにしていた公演だったのだ。
 
期待は裏切られなかった。むしろ、大きな期待を更に凌駕した。
一言で言うのなら「完ぺき」。これ以上の言葉が見つからない。
 
精神的に疲れていたし、ホテルでは仮眠の時間も取れなかったので、睡魔に襲われるかもしれないと思っていた。だが、それはまったくの杞憂だった。
私は、美しい歌唱と美しい音楽に身を委ね、ただただ感激し、涙を流していた。
 
ブランシュ役のプティボン。
完全に役と一体化していた。オペラグラスで覗き込むと、瞳で演技している。もはや女優の域。
純真で、ひたむきで、心の弱さを正直にさらけ出しながら、それでも最後に仲間と一緒に死んでいく決断するブランシュ。そのブランシュをプティボンが完ぺきに歌い演じた。彼女でなければ表現できない歌唱と演技。本当に素晴らしく、美しく、清々しかった。
 
マリー役のコッシュ。
最初から最後まで強い信念が貫かれ、それが歌に満ち溢れていた。芯があって、強くて、決然として、潔い。なんて崇高な歌唱!これぞコッシュ。
 
リンドワーヌのジャンス。母のように包容力があり、大きな愛を感じさせる歌唱。
フランス人ではないけど、クロワッシーのオッター。死の恐怖と怯えを強烈に打ち出した渾身の歌唱。
 
もう一度言うが、彼女たちは「完ぺき」だった。
 
J・ローレルの指揮は、伴奏として作品にピタリと寄り添いながら、ドラマチックで心揺さぶられる場面では、思い切り情感を溢れさせる。まだ若い指揮者のようだが、音楽の作り方が上手い。タクトの手さばきは非常に堅く、一分の隙もない。
これはきっと再演の強みだったと思う。
(初演の際のオーケストラは、イギリスのフィルハーモニア管だった。)
 
演出のO・ピー。私は彼が演出した作品の上演を初めて観た。
オペラ演出家として名前がぼちぼちと知れ始めた頃、聞こえてきたその噂は「作品をぶっ壊すことを厭わない過激演出家」だった。
だから、当初はどちらかというと敬遠していたし、今回だって少々警戒していた。
 
だが、結果は、拍子抜けするくらいに正統的な演出だった。
場面転換が多い物語だが、舞台装置をダイナミックに動かし、照明効果を多用。背景、人物の配置やポーズ、意味ありげに壁に手書きされた言葉(『自由』『神の下での平等』)・・・舞台上のすべての構図が絵本のように形象的であり、シンボリック。舞台の色はモノトーンなのに心に残るような鮮やかな印象で、演出家が作品の核心である「信仰」というものを丁寧に描いているのが一目瞭然だった。
 
ピー、本当は真っ当な演出スタイルなのに、自らの知名度を上げるため、これまで過激さを計算ずくの下、前面に押し出していたのだろうか。
だとしたら、その目論見は成功したと言えるかもしれない。
 
この舞台は初演の際に映像化され、DVDとブルーレイが市販されている。
私も帰国後、即座に注文。実は、たった今、改めてこれを視聴したところ。
このディスクはきっと永久保存版となるだろう。生鑑賞の日の忘れがたい感動(もちろん、大雪トラブルの件を含めて)と共にね。