クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2020/2/10 魔の試練 その1

チューリッヒのオペラの鑑賞記を後回しにして、嵐に振り回された悪戦苦闘の物語を先に書きます。

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長い長い一日は、ホテルのフロント担当者の忠告から始まった。
まだ夜が明けていない午前5時。チェックアウト手続きが終了し、バッグを持って外に出ようとすると、担当者が尋ねた。
「これからどこに向かうのですか? 空港ですか?」
「ええ、そうですけど。」
「多くのフライトがキャンセルになっているようですよ。ご注意ください。」
「は??」
悪天候トラブルです。空港に着いたら、運行スケジュール案内をよく確認してくださいね。」

悪天候って・・・。
意味が分からん。確かに外は雨がポツポツと降っていて、風も吹いているが、決して大荒れではない。この程度でフライトが乱れるなんてあり得ない。

半信半疑のまま、チューリッヒ国際空港に到着。フライトスケジュールモニターを眺め、思わず立ちすくんだ。

ホテルの人が言っていたことは本当だった・・。出発案内の電子掲示板はキャンセルの表示で、軒並み真っ赤になっていた。その中には、私の午前7時20分発ドレスデン行き便も、当然含まれている。西ヨーロッパ圏内では、北欧と南欧以外はほぼ壊滅状態だった。

携帯ネットで原因を調べた。今、欧州中部を嵐が通過している。ただし、暴風雨はアルプスの壁が遮ったため、ここチューリッヒは普通に離着陸を行っている。つまり悪天候トラブルに見舞われているのは、出発地ではなく到着地の方だった。

呆然としてはいられない。慌てて目を凝らし、案内掲示板をチェックする。どこかキャンセルになっておらず、そこからドレスデンに行けそうな場所は、はたしてあるのか?

ドイツ国内で、どういうわけか二箇所だけキャンセルになっていない都市があった。
ハンブルクデュッセルドルフである。
ハンブルクというのはなんとなく分かる。比較的近いコペンハーゲンが大丈夫だったから。
だけど、デュッセルドルフは何故セーフ?
風雲の塊が、たまたまその都市付近だけ避けてくれているのか?

よくわからないが、とにかく行けるというのならデュッセルドルフに行くしかないだろう。デュッセルに着いたら、そこから電車に乗り換え、ドレスデンに向かう。
飛行機の到着時間と中央駅までのアクセス時間をおおよそ推測し、携帯端末からドイツ鉄道DBのWEBで乗り継ぎスケジュールを調べると、うまく行けば午後4時の「マイスタージンガー」開演に間に合うことが分かった。仮にうまく行かなくても、第2幕からは余裕だろう。全部観られなかったとしても、それはもう仕方がない。緊急事態なのだ。

さっそく空港のサービスカウンターで、係の人にデュッセルドルフ行きのアレンジメントを依頼する。コンピューターのキーボードを素早く叩いた係の人は、私にこう告げた。
「その便は、残念ながら満席です。」
あっちゃーー・・・。頭を抱える私。
「でも、もしかしたらキャンセルが出るかもしれません。こうした状況ですから、出発を諦める人が出る可能性はあると思います。ウェイティング、キャンセル待ちにしてみてはいかがですか?」

こうして私は、自分の座席番号が記されていないボーディングパスを受け取った。このチケットでそのままセキュリティチェックを通過し、出発ゲートのロビーまで行くことが出来る。そこで待機しながら、搭乗の可否確認を行うように、との指示だ。

とりあえず、落ち着こう。
私は出発ゲートに向かう前に、朝食を取るためにラウンジに入った。そこでボーッと考えた。

もしかしたら・・・もしかしたら飛行機の選択は間違いだったかもしれない。すかさず電車に切り替えチューリッヒからドレスデンに向かう、という方法がベターだったかもしれない。
フライトは、ある意味、賭けだ。電車の場合、ものすごく時間がかかるが、それでもそっちの方が午後4時開演に間に合う確率が高かったかもしれない・・・。

「いやいや。」
すぐに私は首を横にブルブルと振った。
決めてしまった後の後悔はやめよう。私は焦っていたのだ。冷静な判断を瞬時に下すのは難しかったのだ。今はデュッセル行きの選択が正しかったことをひたすら祈ろう。

午前8時。そろそろキャンセル待ち状況がどうなっているか、確認するために搭乗ゲートに行ってみるか・・。
そう思って、ラウンジ内の運行モニターを覗いた、まさにその瞬間だった。
出発予定だったデュッセルドルフ、それからハンブルクのフライトが、いずれもキャンセルの赤表示にパッと切り替ったのである。

「わわわ・・・。」
驚いたが、でも、なんだか妙に納得。
そりゃそうだろう。ドイツ国内どこも軒並みキャンセルだというのに、どうしてデュッセルドルフハンブルクだけオッケーだったのか。最初から「どうもおかしい。ホントかよ??」と思っていたのだ。

腹は即座に固まった。
私はラウンジを飛び出し、そのままターミナルの出口へと向かった。もちろん、チューリッヒからドレスデンへの電車移動を目指すためだ。飛行機代の払い戻しの手続きをやっている暇はない。

歩きながら携帯端末を操作し、再びドイツ鉄道のWEBから、チューリッヒからドレスデンまでのオンラインチケットを購入。約2万円。一瞬「うぇっ、高ぇ」と思ったが、躊躇なんかしてられない。余計な出費だが、とにかく仕方がない。

QRコード付きの電子チケットが、あっという間に携帯端末に送られてきた。(それにしても、なんて便利な世の中なんだ!)

まずドイツ国境に近いバーゼルに行き、乗り換えてフランクフルトに行く。そこから再度乗り換えて、ドレスデンに向かう。
ドレスデン到着予定は、午後5時24分。第1幕は完全アウト。第2幕も結構ヤバい。それでも構うものか。第3幕だけでも聴けりゃ上等だぜ、こんちくしょうめ。
私は自棄になっていた。

午前9時50分、バーゼル到着。衝撃の事態が待っていた。

私が予約した乗り換えの10時12分発フランクフルト行きの高速列車ICEは、キャンセルとなっていた。

しかも、それだけではなかった。
それ以降も、ていうか、ドイツ方面のすべての電車がキャンセルになっていた。ぜーんぶ。

慌ててインフォメーションデスクに行くと、大勢の人に取り囲まれている担当者が、英語とドイツ語の両方で叫んでいる。
「ドイツ方面への振替調整は行っていません! すべてキャンセルです! 今後の予定も一切分かりませんっ!」
もう一度ドイツ鉄道のWEBを確認。運休はドイツ全土に渡り、大幅に乱れていることが判明した。

呆然と立ち尽くす私。命運は尽きた。ドレスデンへの道は閉ざされた。
「終わった・・・完全に終わった・・・」
こうしてクリスティアンティーレマン指揮によるザクセン州立歌劇場の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」鑑賞は、儚くも夢と散った。

しばしの間、嘆き悲しんだが、すぐに頭を切り替える。いつまでも落ち込んでなんかいられない。

冷静になって考えれば、「飛行機がダメなら鉄道で」という考え自体が非常に甘かったと言わざるを得ない。台風が直撃したら、日本だって鉄道は止まるわな。今ここでようやく気が付いた。

いずれにしても、私はなんとかして、ここスイスを脱出しなければならない。なぜなら、明日が帰国だからだ。

さて、どうするか・・・。
考えろ! さあ! どうやったら明日の帰国便に乗れるのか、ベストの手段を必死に考えろ!


・・・・ちょっと長くなったので、ここでひとまず終了。

続く~(笑)