クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

メトのエレクトラ、オランダ国立のサロメ

先週末、BS放送でR・シュトラウスのオペラが二つ放映された。WOWOWで放映されたメトロポリタン・オペラ上演の「エレクトラ」、そしてNHK-BSプレミアムシアターで放映されたオランダ国立オペラ上演の「サロメ」だ。
立て続けに傑作二本を見られたのは、シュトラウスファンとしてはたまらない。しかも、両方共に素晴らしい演奏、素晴らしい舞台ときた。しっかりと録画し、そのまましっかりと保存したい上演だ。
 
まず、メトのエレクトラ
2016年4月のライブ収録だが、更に3年遡る2013年7月に、フランス・エクサン・プロヴァンス音楽祭でプレミエとなったプロダクションだ。演出したパトリス・シェローは、この上演後に亡くなり、彼の遺作として話題になった。
私はこのエクサン・プロヴァンス公演を現地鑑賞した。断言するが、とてつもない名演、近年稀に見るほどの最高の上演だった。
 
今回のメトでも指揮者はエクスのプレミエと同じE・P・サロネン。巨大で複雑なスコアをしっかり解析しながら、オーケストラを存分にかき鳴らし、作品の魅力を余すところなく伝えている。さすがはサロネンである。
キャストはプレミエのE・ヘルリツィウスからN・シュテンメに変わったが、ヘルリツィウスもすごかったけど、シュテンメもまったく引けを取らずに素晴らしい。現代最高のエレクトラはどちらなのかと問われれば、「二人とも」としか言いようがないくらい実力伯仲だ。
改めてシュテンメの偉大さにひれ伏すと同時に、この夏のザルツ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」で降板してしまったことが返す返す残念で、なんだか無性に悔しさが募ってきてしまった。
 
生鑑賞の時は気が付かなかったが、引き裂かれ、殺意を抱くほど母に憎しみを抱いているエレクトラに、一瞬ではあったが親への愛情を取り戻したいと感じさせるシーンを作っていた。
この場面はひょっとするとシェロー演出の最大の見せ所だったかもしれない。
エクスでの観賞の際「エレクトラは最後の歓喜の踊りの場面で、なぜ途中で踊るのをやめてしまい、呆然となってしまうのだろう」と不思議に思っていたのだが、これでようやく謎が解けた。
やはり細かい表情までも捉える映像というのは、重要な媒体だ。
 
 
次にオランダ国立の「サロメ」。
何と言っても、ピットにロイヤル・コンセルトヘボウ管が入っているのがポイント。指揮者は同オケ首席指揮者のD・ガッティ。
コンヘボ、いい音してる。映像からの音なのに、「ああ、上手え!」と溜息が出た。
 
タイトルロールはスウェーデンの新星マリン・ビストレム。まだ知名度はそれほど高くないと思うが、とにかく容姿がサロメにドンピシャ。もうとにかく容姿だけで「ハイ、オッケー!ゴウカ~ク!」なのである。
実際の歌唱もなかなかのものだ。こうして映像として世界に紹介されたので、今後サロメ歌いとして引っ張りだこになるのではないだろうか。
 
カナーンのニキーチンは、ロシア人なのにドイツ語の歯切れが良く、朗々とした歌声がとにかくよく響く。タトゥーの入った身体からはフェロモンもプンプンと漂い、なるほどサロメが惹きつけられるのも納得だ。
さらにランス・ライアンのヘロデとドリス・ゾッフェルのヘロデアスも最高で、キャストは完璧な適材適所だと言える。
 
演出は、黒を基調としたシンプルなものだが、私は気に入った。ソリストが正面を見据えて歌うことが多いのも、単なる棒立ち歌いではなく、演出上の要請なので、それならいいと思う。
7つのヴェールの踊りでは、サロメの夢想としてスクリーンに「ヨカナーンとのダンス」を写していたが、ありがちのアイデアのようで、実は今まで一度も見たことがなく、「なるほどー、いいかもね」と思った。