指揮 ジョナサン・ノット
合唱 東響コーラス、東京少年少女合唱隊
藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)
本公演に先立ち、音楽監督J・ノットの契約更新が発表された。2026年までという異例の長期契約である。楽団からの打診に対し、ノットの方から「是非もっと長くしたい」との回答があったとのことだ。
いやあ、いい話ではないか。これは楽団側にとって驚きであり、望外の喜びであったに違いない。
そもそも2011年の初顔合わせ、わずか一度の共演で楽団員が直ちに「是非音楽監督就任を要請して欲しい」という意志を示したのだという。それに対して即決でイエスと回答したノット。出発時点から相思相愛の仲なのだ。
こうして迎えたマーラー3番のコンサート。大曲である。指揮者にしてもオーケストラにしても、「よっしゃ、いっちょやったるか!」という気構えで臨んだことは容易に想像出来る。
実際、彼のタクトを見て、「ああ、曲のすべてを把握しているな」と感じた。ど素人の私からすると、あんなに音符に溢れていて、あんなに複雑で、ある意味誇大妄想的、時に支離滅裂が垣間見れる作品を、よくまあ手中に収められるものだと感心する。実に大したものである。
あえて粗探しのように気になった点を挙げるとするならば、中間楽章のあたりで閉塞感が見受けられた。第一楽章と最終楽章の両端が、意欲的なアプローチで壮大な宇宙空間を構築しただけに、やや惜しい気がした。(この点、インバルはどの楽章でも制圧と解放の加減が見事で、どんなに緩い部分でもゾクゾクさせる。比較してしまって申し訳ない。演奏を聴きながら、ついそんなことを考えてしまった。)
メゾのソロを担当した藤村さん。染み入るような歌声で聴衆を魅了した。さすがであった。
だが、今回の演奏とはまったく別問題で、要らぬ余計な心配が一つ。最近、世界の歌劇場の出演キャストラインナップに、彼女の名前を見つけられないのだ。
こうして日本の公演のソリストに出演してくれるのはとてもありがたいが、一方で「世界の一流歌劇場から引っ張りだこ。忙しくて、あるいは高嶺の花で、なかなか日本ではお目にかかれない」くらいの方が、単純にカッコイイとも思う。
今、「世界を席巻する日本人演奏家」がほとんど見当たらないというのが、寂しいけど現実。そんな中、数少ないエースが藤村さんなのだ。彼女こそ我らのヒーロー、じゃないヒロインなのだ。
以前、バイエルン州立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、バイロイト音楽祭で彼女が出演するワーグナー作品を鑑賞した時、カーテンコールで彼女に対して客席から絶大なるブラヴォーが飛んでいたのを目の当たりにした。我が事のように感激しただけに、是非あのステージに舞い戻って欲しいと心から願わずにいられない。