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2022/11/18 東響 サロメ

2022年11月18日   東京交響楽団   ミューザ川崎シンフォニーホール
R・シュトラウス  サロメ(演奏会形式上演)
指揮  ジョナサン・ノット
演出監修  サー・トーマス・アレン
アスミク・グリゴリアン(サロメ)、ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(ヘロディアス)、ミカエル・ヴェイニウス(ヘロデ)、トマス・トマッソン(ヨカナーン)、岸浪愛学(ナラボート)   他


ノットと東響が、モーツァルトのダ・ポンテ三部作に続き、シュトラウスのオペラをコンチェルタンテでシリーズ化させるという、嬉しい企画。今回その第1弾として、「サロメ」の公演が行われた。

シュトラウスの傑作をノットがどのように描くのか。東響がこれをどのように応え、どのように演奏するのか。このコンビのファンにとっても、さぞや楽しみな公演だろう。
だが、とりわけオペラ・マニアにとっては、今、世界で飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍中のソプラノ、アスミク・グリゴリアンの登場が最大の注目だ。私の興味もその一点に尽きる。

グリゴリアンは、彗星のごとく現れたオペラ界のニュー・ヒロインである。
2017年、ザルツブルク音楽祭にベルク「ヴォツェック」のマリー役で音楽祭デビューしたと思ったら、翌年の「サロメ」タイトルロールに大抜擢。これがセンセーションを呼び、2019年の再演にも出演。更に2020年の「エレクトラ」にもクリソテミス役で登場。
2021年は、今度はバイロイトで「オランダ人」のゼンタを歌って評判となり、そして今年、またまたザルツでプッチーニの「三部作」の三つ全部に出演・・・。

破竹の快進撃じゃんかよ・・。

そのグリゴリアンが来日してサロメを歌うというのだ。これを期待せずにいられようか。

期待は裏切られなかった。
いや、それどころか、期待を遥かに凌駕した衝撃、本物だった。

決して声量が大きいわけではなく、パワーで押し切るタイプではない。声の質は瑞々しく、繊細。
それなのに、オーケストラの大音量を突き抜ける鮮烈的な鋭さを持っている。
なるほど、これが世界を驚かせたグリゴリアンか・・・。
唸るしかなかった。

まさに理想のサロメ
現在、世界ではこの役を得意にし、第一人者の称号を賭けてしのぎを削っている歌手たちがいる。
マルリス・ペーターゼン、マリン・ビストレム、グン・ブリット・バークミン、マヌエラ・ウールなど。
今のところペーターゼンとグリゴリアンの二人が一歩抜きん出て、激しいトップ争いというところだろうか。


今回唯一残念だったのは、コンチェルタンテということもあって演技が最小限に抑えられていたこと。
決して棒立ちだったわけでもなく、歌唱だけでも十分立派なサロメだったが、ヨカナーンに挑み、誘惑し、そして拒絶されることでサロメが精神的に狂気を伴って変貌していく姿を、もっと演劇的に視覚的に表現してほしかった。そうしたらインパクト度は更に増したことだろう。グリゴリアンなら出来たはず。だから、この点については、アレンの責任。
(歌手のアレンからすれば、そうしたことも含めて歌唱の力で対応が可能で、信頼に委ねていたということかもしれないが。)


有名な「7つのヴェールの踊り」は、完全にオーケストラ演奏に任された。演技者によるダンスを見せる必要なし。見せ場の主役はオーケストラ。オーケストラの演奏こそがダンスだったというわけである。

指揮者のノットのタクトもキレッキレだった。彼の指揮はいつもキレッキレだが、それはオペラの演奏においても不変であり、一貫していた。
オーケストラが舞台の中央に陣取って主役を張るコンチェルタンテだからだろうか。
ピットの中に入る本格舞台上演でも、彼はあのようなエネルギッシュなタクトを振るのだろうか。
ノットがピットの中で指揮をするオペラ公演をまだ一度も観たことがないが、ぜひとも確かめてみたい気がする。


最高の歌手を揃えたおかげで、まず第1弾は大成功の運びとなった今シリーズ。
なんと、早くも第2弾が発表されている。
来年5月。演目は「エレクトラ」。タイトルロールはクリスティーン・ゴーキー、クリテムネストラは大ベテランのハンナ・シュヴァルツ・・・。

ノット&東響のシュトラウスオペラ、こいつはますます目が離せなくなりそうだ。