クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2017/8/10 ムツェンスク郡のマクベス夫人

2017年8月10日   ザルツブルク音楽祭   祝祭大劇場
指揮  マリス・ヤンソンス
演出  アンドレアス・クリーゲンブルク
エフゲニア・ムラヴェーワ(カテリーナ)、ディミートリ・ウリャノフ(ボリス)、マキシム・パスタ―(ジノーヴィ)、ブランドン・ジョヴァノヴィッチ(セルゲイ)、アンドレイ・ポポフ(ぼろを着た農民)、  他
 
 
ニーナ・シュテンメが落っこちた・・。
体調不良だとさ、フン、まったくよ。
 
俺って本当にこうした事態に遭遇するなあ。昨年のバイロイトもそうだったよな。
もちろんそれだけの場数を踏んでいるから、必然的にそういう回数も増えるってこった。海外オペラ熟練者の宿命。覚悟しなければならないのは承知の上なのだが・・。
 
つくづく思う。
絶対的なオペラ歌手にすべての期待を掛けるのはあまりにも危険である、と。
絶対的なオペラ歌手であればあるほど、いとも簡単にキャンセル権を行使する。
たくさんオペラ公演を鑑賞しているが、主役級ではない「その他役」出演歌手のドタキャンは、ほとんど見かけない。つまりドタキャンは、絶対的な歌手の「特権」なのだ。まったくいい気なもんだ。
 
「生身の体が楽器なんだから仕方がない」と言う人もいるかもしれないが、私はそうは思わない。
生身の体が楽器だからこそ、一流アーティストなら一流アーティストらしく、より一層厳しく節制し、体調管理しろと言いたい。同じ生身の体が資本であるプロスポーツ選手は「今日、ちょっと体調不良」とかいって試合を休まない。絶対に。
 
さて、恨み節はここまでにして、公演の話をしよう。
 
まずは、代役を務めたムラヴェーワ。
彼女は本来アクセーニャ役で当初キャストに入っていた。繰り上がりでカテリーナ役を務めたが、最初からカバーで指名されていたのだろう。
マリインスキー歌劇場の歌手とのことだが、結果は本当に「お見事」の一言だ。その際「急なピンチヒッターだったのに、よく頑張った」的なお褒めや同情はまったく必要がない。
また、シュテンメを拝められなかった悔しさ紛れの自己慰めでもない。どうか皆さん、オペラを観まくっている私の耳を信用してください。
ムラヴェーワ、純粋にカテリーナ役として素晴らしかった。最初からこの人だったとしても、何の文句もないだろう。
 
聴けなかったシュテンメとの比較はまったく意味がないが、それでもあえて比較させてもらうなら、見た目がマダム臭プンプン漂うシュテンメより(ドタキャンしたので、もうけちょんけちょんだ!(笑))、ムラヴェーワの方が圧倒的に若くて、きれい。このため、見ていてドラマにすんなり入り込める。演劇的要素でカテリーナにドンピシャだ。
 
カーテンコールでは、当然のごとく大喝采で、客席から足踏みブラヴォーが轟いたが、まあこの熱狂は「急なピンチヒッターをよく頑張った」的なお褒めがかなり混じっていたかもしれない。
 
ボリス役のウリャノフも、とてもインパクトがあって素晴らしい。実は、彼だってF・フルラネットの代役だ。フルラネットはかなり前に降りており、ドタキャンじゃない分まだ許せる気になる。
セルゲイ役のジョヴァノヴィッチは、歌はいいのだが、役が完全に染み込んでないのか、何となくぎこちなく感じるのが難。まあオペラは音楽だから歌さえ良ければすべて良いはずなんだけどね・・。
 
今回のプロダクションの最大の功績は、ヤンソンスがかき鳴らすウィーン・フィルの怒涛・炸裂の演奏だろう。
ヤンソンスは、巨匠の領域に入り、近年は優等生っぽいが、このショスタコーヴィチでは潜めていた本性をむき出しに現した。アクセーニャをいたぶる場面、セルゲイとカテリーナの組んず解れつの場面、刺激的なシーンで、これでもかというくらいに鳴らす鳴らす。激しさMAX。
芥川賞を取った大先生は、実はひそかに官能小説が大得意だった、みたいな(笑)。
 
冗談はさておき、ヤンソンス、みんな忘れているがやはり旧ソ連系なのだ。ショスタコーヴィチは、彼の中でも重要なレパートリーなのだ。
 
普段は上品なウィーン・フィルも、ここぞとばかりにヤンソンスに応えた。ウィーン・フィル、こんなにも激烈な音を出せるのか。驚異的の一言。このオケ、意外とショスタコーヴィチとの相性が抜群である。
 
クリーゲンブルクの演出も実にスペクタクル。
舞台装置が大規模なため、思わず全体的な見た目に圧倒されるが、実はカテリーナの性的妄想、トラウマ、犯した罪の恐怖、悪夢に苛まされる、といった心理描写に着目しているため、彼女の苦しい心情が痛いほど伝わってくる。まさに本物のドラマだった。
 
最後に、本公演にはマリオッティご夫妻が仲良く連れ添ってご観劇。またお会いできましたね、ペレチャッコさん。それからお一人様のV・ユロフスキも発見。なんか普通のあんちゃんって感じだった。