クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

バイロイトのパルジファル

本日は仕事を休んだ。
別に体調不良でもなんでもない。深夜に放映された今年のバイロイトパルジファル(録画)を見ようと思った。ただそれだけさ。
そんな事で仕事を休めるのかということは、まあとりあえず置いておいて。いいじゃないか。「パルジファルを直ちに見る」それは自分にとって重要な事だと判断したのだから。今年の夏の感動を一刻も早く再現したかったのである。
 
お昼を挟みながら全曲を視聴して、改めて映像ソフトのメリットに感心した。ひしひしと伝わる体感ということではライブには劣るものの、クローズアップ技術によって、出演者たちの表情や細かな演技、施された演出が分かりやすく見て取れる。劇場では気が付かなかったことが色々と発見できて、とても面白かった。映像ソフトは記憶の補完の役割としてこれに勝る物はないだろう。
 
オペラグラスを覗いても分からなかったことが分かる。
例えば、キリストになったアンフォルタスの傷。映像では槍で刺された脇腹だけでなく、磔にされた時に釘で打ち込まれた掌の傷までもしっかり確認できた。
アンフォルタスの脇腹の傷にナイフを入れて血を噴き出させ、聖杯に注ぐ儀式は、こうやって映像で見るとものすごくリアル。アンフォルタスの苦悩は、癒えることのない傷の痛みの辛さなのだが、今回の演出では「負担」、聖なる儀式でキリストとなって信者の祈りに応えるとてつもなく重い負担なのだと、改めて気が付いた。
 
ずっと気になっていたのは、舞台の場所設定。
実は第一幕の間奏曲で映像の地図できちんと場所が示されていたのだが、中東に詳しくないので、生鑑賞の際はよくわからなかった。キリスト教会での出来事である以上、イラクやシリアと国境の近いトルコ国内かと思っていた。イラクやシリアにキリスト教会など無いという勝手な思い込みである。
今回、ビデオを見ながら同時にグーグルマップで追跡。結果、イラク主要都市のモスル郊外であったことが判明。イラクは完全なるイスラム教信仰国だと思っていたが、調べてみるとキリスト教の教会が存在していることを知った。また一つ学習した。
モスルはイスラム国の支配からの奪還を目論むイラクとの内戦が繰り広げられており、舞台に現れる武装兵士(第二幕ではパルジファルもそのような恰好で登場する)との整合性が図られよう。
 
演奏面において最大の注目は、タイトルロールのK・F・フォークト。運悪く私が鑑賞した日だけが代役のA・シャーガーだったことは、このブログ記事で報告したとおり。
フォークトが大成功を収めたことは色々な記事で知っているが、あまりにも素晴らしすぎたら、ひょっとすると「悔しさ」を覚えてしまうかもしれない。視聴前はそう思っていた。
 
映像を見た感想は、意外な結果と出た。
もちろん素晴らしいことに異論はないが、正直言ってインパクトはシャーガーの方が上。
歌唱の優劣ではない。あくまでもインパクトにおいて、だ。新たなパルジファル歌いの出現という意味での驚きである。
 
映像でもライブでも、同じようにハートを揺さぶったのは、グルネマンツのツェッペンフェルト。指揮のヘンヒェンも、本当に直前の代役引受けだったのかと思うくらい作品とオーケストラを手中に収めていて、圧巻の一言だ。
 
バイロイトという特別なフェストに立ち合い、その証をこうして録画ソフトを手に入れることが出来たのは本当に幸せだ。保存版とするのに密かに恐れていた放送中の地震警報テロップも今回はなくて、ほっとした。