次の月曜日、私は同年ウィーン国立歌劇場I・ホーレンダー総監督フェアウェルガラコンサートを抜粋で視聴した。
いずれも在りし日のヨハン・ボータの歌唱を聴くためだ。
バイロイトの公演は現地でも鑑賞したが、ボータに対して爆発的なブラヴォーが飛び、会心のジークムントが大絶賛された。興奮の坩堝と化したあの時のカーテンコールの凄まじさは、特別な体験として決して忘れられない。
ボータは、その両方を最高レベルでこなすことが出来た世界でも稀に見る偉大な歌手であった。
力強さと繊細さの両方を兼ね備え、吠えず叫ばず、常に安定して声をメロディに乗せることが出来た歌唱コントロールはまさしく世界トップ級。出演さえすれば、テノール役において最高が約束されたも同然。世界最高の劇場であるウィーン国立歌劇場ではプリモ的存在だった。
勇姿を最後に見届けたのは、二年前のロイヤル・オペラ・ハウスの「影のない女」。今年5月のウィーン国立歌劇場「トゥーランドット」では、カラフ役を聴くのを楽しみにしていたのにキャンセルになってしまい、落胆したところだった。
ヨハン・ボータの歌を観賞したという公演の記録とその記憶は決して私から消えることはない。これからも永遠に。