2015年10月30日 ライン・ドイツ・オペラ デュッセルドルフ
プロコフィエフ 炎の天使
指揮 ウェン・ピン・シェン
演出 インモ・カラマン
スヴェトラ・ソツダテレヴァ(レナータ)、エヴェス・アブドゥラ(ルプレヒト)、ルネ・モルロック(占い師)、スーザン・マクレーン(宿屋の女将・修道院長)、セルゲイ・コモフ(アグリッパ博士・メフィストフェレス)、サミ・ルッティネン(ファウスト博士) 他
少女の時に目の前に現れた天使を愛してしまい、いつか結ばれることを夢見ながら、己のワガママを押し通して天使を探し求め、最後は取り憑かれた女として魔女の烙印を押されてしまう・・・。
何とも奇妙かつオカルトチックな物語だ。
こんな作品がオペラとして幅広い人気を得られるはずもなく・・・。
プロコフィエフの天才の狂気が発揮された、超ぶっ飛び作品だというのに・・・。
あーあ、もったいない。
うーん、残念。
この珍しい作品が日本で本格舞台上演されたのは、私の知る限りたった一度しかない。そして、今後もよほどでない限り、その機会は訪れないだろう。
では海外はと言えば、レア扱いはまったく同様で、鑑賞のチャンスは極めて限定的。由々しき事態である。
ところがなんと、ドイツ国内で今年二つものプレミエが登場した。一つは名門バイエルン州立歌劇場で、正確に言うとまだこれからの今月末。そしてもう一つが今年6月にプレミエとなったライン・ドイツ・オペラ。奇跡というべきか、珍事というべきか。
もちろん劇場として格式も予算もバイエルンの方が段違いで、キャストも非常に魅力的であるのは間違いない。だが、行けるかどうかはまったくの別問題。この際、こちらが行けるタイミングで観られるというのなら、もうどこでもいい。ぶっちゃけ指揮者、歌手、演出家が誰であろうと全然構わない。
こうして昨年5月、今年5月に続き、またもやデュッセルドルフ行きが決まった。
果たしてお客さんが入るのか?採算は大丈夫なのか?他人事ながら、心配してしまう。
実際の入り具合はというと、まあまあってとこか。空席はあるが、ガラガラというわけではない。今年5月に観たプッチーニ三部作とどっこいどっこい。作品の人気度というより、単にこの劇場の集客力の問題と言えそうだ。
プロダクションはかなり面白かった。大いに楽しめた。
その演出コンセプトであるが、舞台は精神障害者の入所施設内。要するにレナータを取り巻く怪奇現象は、すべて彼女の精神疾患が原因というわけで、何だかいかにもありがちなアイデア・・・と思いきや。最後に思わぬどんでん返しが待っていた。
ずっとレナータに寄り添い、振り回されつつ、数々の異常現象を一緒に体験してきたルプレヒト。まともであるはずの彼が、実は彼も精神疾患による施設入所者であり、本当は全部がルプレヒトの妄想だったというオチ。
そうきたかぁ。なーるほど。唸ってしまいました。
歌手では、レナータ役を務めたソツダテレヴァが貫禄の歌唱。8年前、ベルギー王立モネ劇場(大野和士指揮)で観たプロダクションでも、彼女がタイトルロールだった。
レナータをまともに歌える歌手なんて、世界中を探してもそれほどいないだろうが、新たに困難な役に挑戦してもらうより、そうした人を連れてくる方が手っ取り早いし、安心。そして、その選択は決して間違っていない。今回も大成功だった。
対するルプレヒト役のエヴェス・アブドゥラは声量も少なく、イマイチ存在感が薄い。こちらもベルリン・コーミッシェでこなしたキャリアを持っていたが、ソツダテレヴァに完全に軍配があがった。
宿屋の女将と修道院長役のスーザン・マクレーンは、数年前にバイロイトでクンドリー役に抜擢されたこともあり(藤村実穂子さんの後釜)、既に国際ネームバリューを勝ち得ているが、ここの専属歌手だそう。彼女も非常にいい味を出していた。さすが。
個人的に、第二幕ラストの間奏曲からアグリッパ登場シーンは、音楽が狂おしいほどに炸裂して、もう死ぬほど大好き!いつも血管の中の血が沸騰し、逆流するのを感じながら聞き入っている。本当にクレージーな音楽だ。
観ることが出来て良かった。はるばるデュッセルドルフまで来て良かった。たとえトラブルに遭遇しようとも(笑)。(ご安心ください。この時点でもうすっかり立ち直っています。)
バイエルンのも聴きたいなあ・・・。
今シーズンは行けそうもないが、来シーズン以降なら、ひょっとしてチャンスが・・。
最大の問題は再演が果たしてあるのかということ・・・。困ったもんだ。