クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2015/9/21 ROHマクベス

2015年9月21日   ロイヤル・オペラ・ハウス  東京文化会館
ヴェルディ  マクベス
指揮  アントニオ・パッパーノ
演出  フォリダ・ロイド
サイモン・キーンリーサイド(マクベス)、リュドミラ・モナスティルスカ(マクベス夫人)、ライモンド・アチェト(バンクォー)、テオドール・イリンカイ(マクダフ)、サミュエル・サッカー(マルコム)   他


 聴衆の度肝を抜いたウクライナ出身のモナスティルスカ。2010年にキエフ国立歌劇場の日本公演(トゥーランドットアイーダ)で来日していたんだってさ。知ってた?
 そうだったのかぁ・・。俺も知らんかった。
 ああいう東欧系出稼ぎ公演はたいてい演目に魅力がない(※)のでパスしてしまうが、時々とてつもない才能が混ざっていて侮れないというまさに典型だね。
(※作品がつまらんという意味じゃないよ。「他にいくらでもあるでしょ、なのに何でそれなわけ?」ていう意味ね。)

 そのモナスティルスカ、生で聴いたのは初めてだが、2012年にメトに出演したアイーダのタイトルロールをライブビューイング(映画)で鑑賞したので、一応は知っていた。アイーダに関しては、メトデビューということもあってか固さが拭えず、「大根」(失礼!)の印象だった。恒例の幕間インタビューで、英語が完璧ではないため通訳を介していたシーンが、いかにも新星みたいで肝心の歌よりも記憶に残っている。

 今回のマクベス夫人であるが、その時の面影はまったくない。堂々たる貫禄があり、妖艶で、怖いほどの存在感。役の魅力をストレートに出している。誰もが感じたとおり、声の威力は圧倒的かつ驚異的だが、弱音にも気を使っていて、意識的に陰影を作っていたのは感心した。
 ツイッター等による他の方の感想で、「細かなニュアンスに乏しい」みたいなことが書かれていたのを見つけたが、果たしてそうだっただろうか。強靭な声ばかりに耳が奪われてしまったのかも。私自身は全然そう感じなかった。

 もう一人のスター、キーンリーサイドも素晴らしかった。
 彼の歌唱を聴いていると、マクベスという役がいかに人間的に弱く、迷いや葛藤があり、苦しんでいるかがよく分かる。そうした繊細さを、歌と演技の両方で表現することが出来る。そこら辺はさすがの一言だ。
 以前に彼の同役を聴いているが、今回の方が遥かに素晴らしい。前回の「??」な印象を払拭出来たのは本当に収穫。

 演出は、シンプルな舞台だが動きはあり、しかも随所に演出家の仕掛けがあって、退屈しない。
 色々なことが見えていたが、一番「なるほど」と思ったのは、夫婦が沢山の子供に囲まれる幸せな家庭の夢のシーン。人を殺してでも権力を手に入れたいという欲望は、子宝に恵まれなかった不幸な家庭環境が元凶であり、ここで歯車が狂ったとでも言っているかのよう。そして、こうした運命のいたずらを操作しているのが魔女たちだったというわけだ。

 このマクベスというオペラ、気に入る演出と気に入らない演出がはっきり分かれてしまい、そういう意味では個人的に難しい作品である。分析してみると、気に入らない演出では大抵の場合「魔女たち」の扱い方が中途半端。彼女たちは単なる預言者ではない。主人公の運命を握っているのが彼女たちだ。そこがどう表現されているかが、私にとっての大きな観賞ポイントなのである。