戸惑いはファンや愛好家だけに留まらない。きっと多くの評論家連中も同じだっただろう。
ここにとても興味深い資料がある。わずか二年前のモーストリー・クラシック誌(2013年10月号)の特集記事である。タイトルは「2013年指揮者ランキング」。
さてと。
今回世界最高のオーケストラのシェフとして選ばれたK・ペトレンコはこの時いったい何位を獲得したのだろうか。諸兄、大注目だ。
57位なのである。ぷっっ・・ぷぷっっ。
ちなみに、同票獲得で同じく57位として選ばれた指揮者がいる。
プッッ・・ブ・・ぶハハハハ(爆)
笑っては失礼だが、やっぱり笑ってしまわずにはいられない。
ちなみに、今回有力候補として下馬評に挙げられたティーレマンが第9位、デュダメルが18位、ネルソンス35位だった。
5年前、8年前の結果ではない。わずか2年前の記事なのである。
この投票結果は実に興味深い。
もちろん、時代や情勢の変化が急激だというのもある。だが、それ以上に日本と欧州との距離と温度差を痛感せざるを得ない。
色々な要因が考えられよう。
まず一つは決定的な情報不足。というより、最新情報を入手しようとする努力の圧倒的不足と言うべきか。
次に、どうしても来日アーティストを優遇してしまうことがあろう。才能や音楽性というものは実際に聴いてみないと分からないが、本場の情勢を現地の生で探るのは難しい。日本に来てくれるアーティストを評価するのが一番手っ取り早い。
それから、これは一般愛好家の大きな傾向だが、巨匠など既に確立されたネームバリューの絶対的崇拝主義。ブランド志向が強いのは、クラシック業界でもまったく同様である。
もう一つ一般愛好家の傾向として、血統主義、伝統保守傾向が強いことが挙げられる。日本人愛好家は、ドイツ音楽だったらドイツ人かオーストリア人の指揮者、イタリア・オペラだったらイタリア人の指揮者を盲目的にありがたがる。だから、アウトサイダーのドゥダメルの躍進には「ほんとかよ」と懐疑的になるし、天下のベルリン・フィルのシェフにロシア人が就任することに大いなる戸惑いを覚える。
その他に、根強いレコーディング拝聴主義も挙げられるだろう。
ただし、いずれにしても難しい問題であることは間違いない。なぜなら、現実的に本場欧州とは大きな距離が存在するのだから。
それに、巨匠やビッグネームに頼りたくなるのは、偉そうなことを言っている私だってそう。だって、はずれクジを引きたくないし、賭けはしたくない。チケット代は高い。限られた資金を何に充てるかは、重要な選択なのだ。仕方がないではないか。
せめて、心掛けたいのは、「注目の若手」と評判のアーティストはなるべく逃さないようにしたい。
例えば、これから日本にはトゥガン・ソヒエフがベルリン・ドイツ響と、グスターヴォ・ヒメノがロイヤル・コンセルトヘボウと、アンドレス・オロスコ・エストラーダがhr響と来日する。彼らの演奏を、色眼鏡で測ることなく、ネームバリューに踊らされず、他人の評価に惑わされず、素直な自分の感性で評価してみることだ。
また、来日の予定は今のところ無いが、最近欧州で名前を頻繁に見かけるアラン・アルティノグリュやテオドール・クルレンツィスといったニューフェースの動向も、これからもチェックしていこうと思う。
果たして、数年後の指揮者の趨勢はどのように変わっているのであろうか。