指揮 キリル・ペトレンコ
イゴール・レヴィット(ピアノ)
聴衆の度肝を抜いた超弩級の演奏。
おい、みんな、聴いたか!?奴こそ、ベルリン・フィルに選ばれた男だ。日本に初登場し、遂にヴェールを脱ぎやがった。
これまで半信半疑だった人も、彼が本物中の本物であることを実感したのではないか!?
演奏後の会場で、興奮冷めやらずに「この衝撃はクライバー級だ!!」と漏らしていた人がいた。その感想は決してオーバーではない。
クライバーとの共通点は確かに存在する。
一切の妥協を排し、徹底的に緻密な音楽を作り上げてくること。
来日記者会見の場で、「一番重要なのはプローベ」と語ったとのことであるが、これは紛れもない真実である。
一方で、クライバーと似て非なる点も存在する。
クライバーの場合、プローベで徹底的に作り上げた緻密な音楽を、花咲かせるように心ゆくまで解き放つタクトを展開する。
対してペトレンコの場合、プローベで徹底的に作り上げた緻密な音楽を、そのまま一滴も漏らさず再現するためのタクトを展開する。
表現の幅が大きく、身振りも大きいため、一見ものすごくエネルギッシュで情熱的だが、誇張や虚飾は皆無で、勢いに押し流されない明晰さと的確さを頑然と死守している。
作品の統一性と多様性を同時に展開させる表現力。惰性に陥ることがない集中力。大胆で迫真に満ちた説得力・・・。
なんだかめちゃくちゃ褒めたぎっているが、要するにクラシック界の新時代を担うリーダーが、また一人ここに出現してくれたことが、私は嬉しくて嬉しくて仕方がないのだ。
と、ここまでペトレンコ礼賛のオンパレード鑑賞記だが、実を言うと、一曲目のパガニーニ・ラプソディを弾いたI・レヴィットの演奏も、びっくりするくらい凄かった。彼はひょっとすると、今後ピアノ界の台風の目になるかもしれない。