2015年5月5日 ケルン市立歌劇場
R・シュトラウス アラベッラ
指揮 シュテファン・ショルテス
演出 ルノー・ドゥーセ
エンマ・ベル(アラベッラ)、アンナ・パリミーナ(ズデンカ)、エギルス・シリンス(マンドリカ)、ラディスラフ・エルグル(マッテオ)、ビャーニ・トール・クリスティンソン(ヴァルトナー)、ダリア・シェヒター(アデライーデ)、ベアーテ・リッター(フィアーカーミリ) 他
かなりヤバイ演出である。
第一幕まではまあ良かった。舞台には壊れた巨大なシャンデリアがオブジェとして置いてある。もちろん、アラベッラの一家を含む貴族の没落の象徴だろう。登場人物にはけばけばしい化粧を施し、衣装もかなり作り物っぽくて、まるでデフォルメされた人形のよう。おそらく演出家は戯画っぽさ、嘘っぽさ、虚飾性などを打ち出したかったのだろう。それ自体は良い着眼点だ。
そこまでにしておけば良かったのに・・・。
第二幕の舞踏会は読み替えによって舞台が置き換えられた。何になったと思う?
「戦場」である。はぁ??
アラベッラに言い寄る三人の貴族はみな負傷兵となり、包帯を巻いたり車椅子に乗ったりと、痛々しい姿で登場する。意味がわからん。
こうした展開を導くかのような狂言回しを行っているのが、冒頭に登場する占い師。彼女がすべての事の成り行きを握っている。
でもなあ・・・。
本当に意味がわからん。
アラベッラが持ってきたコップの水をマンドリカが飲み干し、慣習に則ってコップを床に投げ捨て、叩き割る場面。演出家は「戦場に咲いたお花畑」を作ろうとしたのだろうか、空からバラバラと花を降り注いだ。これには客席が爆笑。音楽的にも物語的にも一番の感動の場面なのに。
他の小細工は許す。だが、私はこれだけは許せない。最悪だ。
私は現代演出は嫌いじゃない。だから読み替えしてもいい。
ただし、そこで音楽がどうなっているのかだけは常に気にしてほしい。頼む。本当に頼む。それが出来ないのなら、オペラに入ってくるな。演劇とか映画だけやってろ。
歌手について。
マンドリカを歌ったシリンスは、最近売れっ子の様相。日本での出演機会も増え、知名度も上昇。そんな彼が素晴らしいところは、演技をしていても決して歌がブレず、音楽がそっちのけにならないことだ。非常にマジメなしっかりとした歌唱である。一方で、表情はいつも固く、演技者としてはもう一歩かも。
アラベッラを歌ったベルは、この日一番の収穫。以前にマイスタージンガーのエヴァ役を聴いたことがあるが、印象はほとんど残っていない。今回も期待していなかったが、素晴らしかった。とにかく歌がエレガント。それに気持ちがこもっていて、「ここぞ!」という箇所での歌い上げは場内がビリビリと振動するかのよう。今後はもっと注目していこう。
ズデンカのパリミーナも良かった。見た目も声も、とってもズデンカだった。
私はこのズデンカという役がたまらなく愛おしくて好き。個人的に公演の良し悪しを、この役を歌う人が握ると思っているくらい。なので、この公演は、演出はさておき、合格〜!なのである。単純なのだ、私も。
ところで、前日のフランクフルトに続き、この日もお客さんの入りが悪い。
フランクフルトでは単にマイナーな作品ということによる影響だと思ったが、アラベッラでこの入りだと、ちょっと心配になる。オペラ芸術に未来はあるのか?と。
まあ深刻になってもしかたがないので、とりあえず周囲の人と同様、私も堂々と自席を離れて特等席に移動しましたけど(笑)。どうも失礼。