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2014/5/28 新国立 アラベッラ

2014年5月28日   新国立劇場
R・シュトラウス   アラベッラ
演出  フィリップ・アルロー
妻屋秀和(ヴァルトナー)、竹本節子(アデライーデ)、アンナ・ガブラー(アラベッラ)、アニヤ・ニーナ・バーマン(ズデンカ)、ヴォルフガング・コッホ(マンドリカ)、マルティン・ニーヴァル(マッテオ)   他
 
 
 私はシュトラウスの音楽が好きだ。
 このところ新国立の「カヴァ&パリ」にムーティナブッコ(シモンは本日の午後)と続いて、すっかり耳がイタリアナイズされていたが、アラベッラを聴いて改めて「シュトラウスは最高だ」と思った。
 シュトラウスの音楽にはうっとりするような陶酔がある。他では味わえないような恍惚がある。
「この幸福感はいつ以来だろ?」と思い起こしたら、それはロンドンで観た「影のない女」以来だった。
 やっぱり私にとってシュトラウスは格別なのだ。
 
 プロダクションとしては再演。前回に鑑賞して、鮮やかなブルー仕立てによる舞台といった表面的な事が記憶に残っていたが、今回改めて観てみると、非常に演劇的であることに気づいた。登場人物に動きがあり、なおかつそれらの所作がきめ細かく決められているのである。
 
 印象的なシーンが二つ。
「エメラルドのブローチを質に出してこい。なに?もうないのか?」と問い詰める父ヴァルトナー。「あれは先週のことでした。」と溜息混じりに答える母アデライーデ。実はそのブローチはつい先ほど占い師への報酬で消えていた・・・この演出アイデアは、些細ではあったが面白かった。
 もう一つは、嫉妬と裏切りに対する憤慨でマンドリカがワインをワインクーラーに注ぎ込んでガブ飲みするシーン。隠していた田舎者の本性をここで露わにしたわけだが、これもまたナイスな振付だと思った。
 
 これらのシーンは前回の時には気が付かなかった。単に気が付かなかっただけかもしれないし、ひょっとしたら今回改めて演出家が振り付け直したのかもしれない。(再演にも関わらず、アルローはわざわざ来日したそうだ。ひょっとしておヒマでした??(笑))
 
 こうした細かな振付の要請に応えながら、しっかりと存在感を示していたのがズデンカ役のニーナ・バーマン。好印象を得たのは、演技していることを感じさせない自然な振舞いで物語に入り込んでいたこと。
 初演の際のズデンカ役の人は、はっきり言って全然存在感なかったからなあ。
 ズデンカはこの物語でカギを握る人物(あ!‘文字どおり’とはまさにこのことだ!)である。なので、今回は「適任を得たり」だった。もちろん歌も素晴らしかった。
 
 比べちゃわりぃけどさぁ、日本人歌手の皆さん。
 一生懸命やっているのは本当によく分かる。分かるんだけど・・。一生懸命やればやるほど演技が仰々しくなり、わざとらしくなる。
 ニーナ・バーマンみたいなさりげない演技ができないかなあ。さりげなさって重要。それっとやっぱり難しい?
 歌は外国人キャストとそれほど遜色がないのである。それだけに惜しい。実に惜しい。
 
 主役のお二人について。
 マンドリカ役のコッホは名歌手だ。既にワーグナー歌いとして定評があるが、シュトラウスも良い。役に合った歌い方をすることができ、その歌にはしみじみとした味わいがある。さすがだった。
 一方、ガブラーはちょっと評価が難しい。
 悪くはなかった。少なくとも昨年聴いたマイスタージンガーエヴァに比べれば良かったと思う。
 だが、聴き手をグッと惹きつけるような魅力に乏しい。時々棒立ちならぬ‘棒歌い’になるのが気になる。
 
 そんな彼女を支え、そして引き立てていたのは、指揮者のド・ビリーだ。ド・ビリーはオーケストラを使って彼女の歌を飾り、彩っていたのである。サポートとしては絶妙だ。
 この指揮者は歌手の実力と声の特性を瞬時に把握し、フレキシブルに対応した演奏をすることが出来る。縁の下の力持ちに徹していて、舞台上とピットの調和を図ることに専心している。歌手にとってこんなありがたい指揮者はそうはいないのではないか。ウィーン国立歌劇場の常連指揮者というのもある意味頷ける。
 だが、オーケストラを駆使した音楽の牽引という意味では、物足りなさも感じる。特にシュトラウス特有のゴージャス感や官能性は影を潜めた。ちょっと冷めた印象である。ひょっとすると、そこらへんは歌とのバランスの中で選択された妥協の産物なのかもしれないが。
 
 
 最後にうんちくを一つ。
 第一幕でマッテオが「アラベッラは? 昨日は何をしていたの?」と尋ね、ズデンカが「ママと一緒にオペラだよ。」と答える。
 さて、お二人は何のオペラを観に行っていたでしょう? 知ってる?
 
答えは「ローエングリン
 
なぜ分かるのかって?
音楽に示されているのですよ。
これ、故若杉弘先生が教えてくれた。