指揮 佐渡裕
セルゲイ・アントノフ(チェロ)
バーンスタイン キャンディード序曲
本来なら指揮者はマゼールだった。各国から集まったアカデミー生にとっては、世界的巨匠から指導を仰ぐまたとないチャンスだったはず。演奏キャリア上の大きなインパクトになったかもしれない。逝去を嘆き悲しむ聴衆ファンも多いと思うが、演奏側の彼らにとっても残念な一件だっただろう。
さて、そのマゼールに代わって登壇したのは佐渡裕。ピンチヒッターとしてはこれ以上ない適任だ。PMFのメモリアル指揮者であるバーンスタインの直弟子であり、本フェスティバルの創設にも深い関わりがあった同氏である。バーンスタインの意思とPMFの精神を彼ほど理解している人はおらず、そういう意味で鮮やかな代替出演決定と言えるだろう。
1曲目、キャンディード。
同時にこの曲は佐渡裕の代名詞でもある。まさに挨拶代わりの一発。電光石火、疾風迅雷。佐渡のノリノリのタクトに、感度抜群のPMFオーケストラがものすごく俊敏な演奏で応える。いいぞ!お見事!なんて快適なんだ!
というボルテージは、二曲目のヌルい曲によって一気に萎縮消沈(笑)。
ヌルいだなんてお叱りを受けちゃいそうだが、自分の胸に手を当てて正直に言うと、ワシはこの曲ヒジョーに退屈である。個人的にね。まことにスマン。
開き直っちゃうけどさあ、誰だってつまらんと感じてしまう曲はあるでしょう。だから仕方がないのである。だいいちチャイコだからといって全部が全部名曲だとは限らん。
萎んでしまったボルテージは、メインのタコ5で沸騰急激回復。
それにしても、佐渡裕のタクトを眺めながらしみじみ思う。いい指揮者になってきたなと。
一球入魂的な熱血ぶりは相変わらず。だが、昔はただ熱いだけの指揮者だった。音楽に没入することがすべてみたいな指揮者だった。
今は全力を注ぎながらも、どこか客観的で冷静で俯瞰的である。まっしぐらでありながら、どこか余裕があり、ゆとりがある。
若者のオケを統率していたから、たまたまそのように見えただけなのだろうか。
いや、それだけではないだろう。きっと指揮者としていい感じに成熟してきているのだ。自然と引き出しが増えてきたのだ。
カーテンコールが終了し、退席というところで、各奏者がお互いハグを交わし、健闘をたたえ合う。中には感極まって涙ぐんでいる人も。
いやあ、若いってのはええのう(笑)。