指揮 シャルル・デュトワ
鮮烈、あまりにも鮮烈だった。
大げさかもしれないが、これは私にとって転換点となった画期的公演だ。それはつまり、ボストン響に対する既成のイメージが思い切り覆ったことを意味するものである。
その15年前の公演は行かなかった。あえて背を向けた。それまでに4回の来日公演に足を運んでいたのだが、一度も良い印象を持つことが出来なかったためだ。やれ「名門」だの「ビッグ5」だのと呼ばれていたが、私の評価は「イマイチ」。
「際立ったキャラに乏しい」「オーラが無い」
ボストン響の印象は、そのまんま私の小澤征爾に対する評価だった。
それは逆にシカゴやフィラデルフィアが今、少しずつ少しずつ失いつつある貴重な財産なのだ。
もう少し具体的に言おう。管楽器において、各奏者の演奏技術が高く、上手い。そして音色が美しい。特に金管の純度100%の金のような美しさは、驚異的の一言である。マーラー5番冒頭の葬送ファンファーレには、おそらく多くの聴衆が腰を抜かしたことだろう。奇跡の瞬間だった。
そうした高い演奏能力が壮麗な響きの構築を可能にし、聴き手を陶酔の世界に誘う。
美しい音色を調理し、そこに緻密さと精妙さを味付けする技において、デュトワの右に出る者はいない。彼の最も得意とすることだ。こうした絶妙のバランス仕上げによって、サントリーホールに類まれなる色彩が踊った。
今回マゼールが落っこちてしまったが、私にとっては災い転じて福となす。
その結果、初めて、そしてようやくボストン響の魅力に開眼。
マゼールファンにも小澤ファンにも、申し訳ないが。