指揮 アレクサンドル・ラザレフ
浜野与志男(ピアノ)
スクリャービン ピアノ協奏曲
やはりラザレフは最高だ!
メインのタコ7は絶品だった。彼のショスタコに懸ける熱意と意欲が存分に伝わってきた。「これだけは絶対に譲れない」みたいなこだわりが聞こえてきた。そこらへんは、前週に聴いたインバルのマーラーと相通じるものがある。
スコアに表面的に書いてある事だけでなく、作品が生まれた当時の背景や社会情勢、作曲家の置かれた状況等を相当に熟知しているのではないかと思う。もちろんそれはロシア出身の指揮者として常識的なことかもしれないが、他の指揮者との違いは一目瞭然だ。
特に強い印象を得たのは、有名な第一楽章のボレロ風の第二主題。なんとも可愛らしいメロディゆえに、それが「戦争の侵攻のテーマ」と言われても今ひとつピンと来ないのだが、今回ラザレフの演奏を聞いて、私は本当に怖さと不気味さを感じた。徐々に知らぬ間に忍び寄る影のように聞こえたのだ。何度もこの曲を聴いているが、初めてのことだった。
その忍び寄る侵攻の足音を刻むリズムを正確に再現したスネアドラム奏者を、ラザレフはカーテンコールの際に手を引っ張って指揮台にまで連れて行き、讃えていた。
多くの観客は、これを何気ない微笑ましい光景として見たことだろう。
だが私は、ラザレフがここの部分の演奏こそ作品の核心であると解釈し、演奏にあたって強い思いを込めていた証なのだと見た。
日本フィルの来シーズンはラザレフのショスタコーヴィチがいくつか組み込まれている。これはなんとしても行かねばなるまい。