指揮 ロビン・ティチアーティ
マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ)
メンデルスゾーン フィンガルの洞窟序曲
ショパン ピアノ協奏曲第2番
イギリス出身の指揮者ティチアーティについては、実は少々引っかかっていたことがあった。
この時、私は公演そのものに胡散臭さを感じ、聴きに行くのをパスした。確かにザルツブルク音楽祭の制作かもしれないが、日本に持ってきたのは演出と装置だけで、指揮者もオーケストラも歌手もすべて異なる。主催側の「絶大なネームバリューを利用して釣ってやろう」という魂胆が見え見えで、私はそれが気に食わなかったのだ。
その後、グラインドボーン音楽祭の音楽監督に就任というニュースも飛び込んで、「うーん、やっぱりあの時聴いておけば良かったかなあー」なんて思っていたちょうどその時、今回の来日公演のことを知ったのである。メインの勝負曲は王道のベト5。しかもピリスのショパ・コン付き。申し分ないじゃんか。
ということで、チケットは迷うことなく速攻で購入。結構楽しみにしていたコンサートだった・・・のに・・・。
仕事が忙しくて、公演に遅刻。フィンガルは聴き逃した。ヘタをするとコンチェルトもアウトだったが、全力で駆けつけて何とかギリギリ間に合った。ちくしょうめ。
ピリスのショパンは、乱れた息と高まった心拍数を安らかに鎮めてくれた。純粋で、清らかで、叙情に溢れたピアニズム。特に第二楽章の美しさといったら!それは究極の美への誘いであり、天国への憧憬であり、神の恩寵だった。本当に間に合ってよかった。
ようやく聴くことができたティチアーティは、見た目と同様、若さ溢れる溌剌のタクトで活気のある演奏を披露し、楽しませてくれた。P席から指揮姿を観察したが、指揮しながら思わず溢れる笑顔がかわいい(笑)。まるで指揮をするのが楽しくて仕方がない様子。
ラトルに師事したとのことだが、ラトルも指揮をしながら笑みが溢れることがあり、そこらへんはしっかり引き継いでいる。きっと師匠から「音楽する喜びをしっかりと表現しなさい」とでも言われているに違いない。
ピリオド奏法の特長を活かし、洗練された響きと輪郭のはっきりしたフォルムが冴え渡って、まさに才気爆発という感じだ。
近年、若い才能の開花を目の当たりにすることが多くなって、それはそれでとても嬉しく思う。自分がどんどん歳を取っていくのを否が応でも自覚して、複雑な心境でもあるが(笑)。
ところで話は変わるが、今仕事が猛烈に忙しい。この公演だってそのせいで遅刻したし、鑑賞記も5日たってようやく書くことができた。