2013年12月21日 クリスティアン・ツィメルマン ピアノリサイタル 所沢市民文化センター ミューズ
ポゴレリッチとツィメルマン、二人のピアニストによるベートーヴェンのソナタが今年の国内での聴き納めになった。特に第32番は、終着駅に到達し、そこから歩んできた道を振り返るかのような高みに達した曲なので、ラストに相応しく、2013年を締め括ってくれたと思う。
それにしてもツィメルマンの音色は、なんと温かく、そして穏やかに響くことか。タッチが繊細で、なおかつ詩情に溢れている。ポゴを聴いた後なので、なおさらそのように感じた。(別にどっちが良いとか悪いとか言っているわけではない。)
同時に、ベートーヴェンに対しても、「格調高く、峻厳とした」といった崇高的観念から少し離れ、「さりげなく、朴訥とした」といった別の一面を想起させていた。ベートーヴェンを神様のように扱うのではなく、あたかも身近な友人的存在として見ているかのような、そうした人間的な優しさが感じられる演奏だったと思う。
聴いている人に対しても、また作曲家に対しても、ピタリと寄り添うかのようなピアニスト、それがツィメルマン。彼の演奏を聴くといつも幸せな気分になれるのは、つまりそういうことだからだろう。