クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2013/10/12 アイーダ

2013年10月12日  ウィーン国立歌劇場
演出  ニコラ・ジョエル
ヤニュシュ・モナルツァ(国王)、オリガ・ボロディナ(アムネリス)、クリスティン・ルイス(アイーダ)、マルチェロ・ジョルダーニ(ラダメス)、ソリン・コリバン(ランフィス)、マルクス・マルクァルト(アモナスロ)   他
 
 
 ステージに近いボックス席だったので、ピット内をじっくり見ることが出来た。上演中も、舞台だけでなくピットを常に興味深く観察していた。
 
 まず、コンマスのホーネックをはじめ、直前のウィーン・フィル公演に出演していた奏者が何人もいた。慣れていることとはいえ、本当にご苦労様である。
 
 世界最高のオペラハウスと言われているが、年間300公演もこなしており、そのすべてが常に最高の上演であるとは限らない。通常のレパートリー公演では出来不出来の波があり、低調な上演もしばしばという話をよく耳にする。実際、私もこれまでにそういう腑抜けの演奏に遭遇したことがある。
 この日のアイーダは、まさに通常のレパートリー公演。曲目も有名で、客席にもおのぼりさんが目立つ。やっつけ仕事に陥るのではないかという若干の不安があった。
 
 改めてピット内のオーケストラの演奏を注意深く聴き、そして観察していたのだが、どの奏者も真剣そのもの。音楽に非常に集中していて、気の抜けた演奏など皆無。
 
さすがだと思った。と同時に、彼らウィーン国立歌劇場管弦楽団のプロ根性を改めて見直した。
 
 楽団のやる気を引き起こし、集中力を高めさせ、高水準の音楽を導き出したのは、実は指揮者エッティンガーの功績なのかもしれない。
 東京フィルの常任指揮者として日本でもお馴染み。若いが、既に十分なオペラキャリアを積んできた証だろう。大胆かつ繊細で、エネルギーに満ち溢れたタクト。堂々とオペラを仕切っている様は風格さえ漂っていた。
 
 しかもその姿が若かりし頃のバレンボイムそっくり! 本番用の衣装までそっくり(笑)。
 
 さすが愛弟子だ。風格が備わっているように見えたのも当然か? あたかもバレンボイムを彷彿させる指揮姿なら、百戦錬磨のオケ連中も素直に従わざるをえない。エッティンガーはそこまで狙っていたのか? いや、まさか、な(笑)。 
 ちなみに、エッティンガーは、このウィーンでの仕事が終わった直後に日本にやってくる。
 
 歌手では、やはりボロディナが圧倒的に素晴らしい。彼女のアムネリスは、王女らしく高貴な気品が漂っている。冷たい表情も見事に役にハマっている。ただし、自分の最高権力を持ってしても愛を勝ち取ることが出来ない悔しさや焦りといった表現はもう一つというところ。
 
 主役のルイスは初めて聴いた。ややリリックな声だが、芯があって、しっかりと響く。アフリカ系アメリカ人ということで容姿も含め、この役に必要な全てを兼ね備えている。もちろん色々な役を持っているだろうが、少なくともアイーダで世界の歌劇場を回ることが出来るだろう。
 
 マルチェロ・ジョルダーニは・・・まあ普通。真剣に演じているのだが、声にムラがあるため、あたかも手を抜いているように聞こえる部分があるのが玉にキズ。でも、ジョルダーニはいつでもそうなのだ。
 
 演出は、オーソドックスで中庸で、特にコメントも説明も不要。
 
 ボックス席で私の隣に座っていたのは、アメリカ人ご夫婦だった。彼らは、やや誇張された衣装だとか、些細な演技だとかにいちいち面白がって笑っていた。このアイーダに笑う箇所など一つもないはずなのに・・。
 
「ああ、こいつらだ」と思った。
 アメリカの歌劇場では、ちょっとしたことですぐに客席から笑いが生じる。ヘタすると爆笑が起きる。音楽ではなく、お芝居を観に来ているヤツら。まさにこいつらなのだ。
「おまえら、ウィーンのお客さんがどういう態度で上演に接しているか、少しは勉強しろ!」と言いたかったが、よく考えてみたら、世界最高と言われるこの劇場も、実は多くの観光客に支えられているのであった。残念。