指揮 ピエタリ・インキネン
生誕200年記念オールワーグナープログラム
空前と言っていい怒濤のワルキューレ月間。誰が仕組んだか、はたまた偶然か、2つの老舗オーケストラ定期公演で、同日に同一演目によるバトルが勃発した。二日続けてそれぞれの会場に足を運んだ人はきっと多かったと思う。
実は私は当初どちらか1公演だけ行くつもりだった。両公演を立て続けに聴けば、否が応でも比較してしまうことになる。
個人的な考えだが、私は音楽鑑賞において、なるべく比較作業をしたくないと思っている。「こっちに比べてこっちの公演は」と評することに何の意味があるのかと思っている。
結局は甲乙つけ難い魅力に負け、両公演ともチケットを買ってしまったが、迷わずに当初から「行く」と決めていたのは日フィルの方だ。
その決め手は何と言っても歌手。上記の3人はバイロイト音楽祭の常連歌手。「よくぞ揃えた!」と思わず称えたくなるほどの豪華さだ。指揮者がインキネンだったからこそ実現したキャスティングであることは間違いない。
まさにその期待に応えた、素晴らしいワーグナーの夕べだった。
オニールのピンと引き締まった力強い声。ハッラーの心を揺さぶるような歌。もちろん円熟のスネルも申し分ない。三人は完全に音楽とドラマにのめり込んでいて、あまりの迫真さに息が詰まるくらい。
日フィルも大健闘だったと思う。このオーケストラもワーグナーを十分に聴かせることができるんだ!と素直に驚嘆した。
インキネンのワーグナーは、叙情的であり、洗練されていて、瑞々しい。聴きながら、今年前半のシベリウスチクルスを思い出した。曲が異なっても、オーケストラに対する基本アプローチは同じなのだろうなと想像した。
ひょっとしたら日フィルにとってもインキネンにとっても残念だったかもしれないのは、すべての手柄を歌手が持って行ってしまったことだ。
だが、これはもう仕方がないやね。彼ら3人のおかげで、日フィルの公演史に新たな軌跡を残したのは事実。素直に良しとするべきだろう。
日本語字幕装置が付いたのは良かった。新日本フィルはなかったし・・・。
歌手が暗譜で、演技付きで歌ったのは良かった。新日本フィルは譜面台を前にしながら客席を向いて歌っていたし・・・。
あ、ほら、やっぱり比較しちゃってる(笑)。