クラシック、オペラの粋を極める!

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2023/5/28 トリスタンとイゾルデ

2023年5月28日   ヘッセン州立劇場(ヴィースバーデン
ヴィースバーデン国際5月音楽祭》
ワーグナー  トリスタンとイゾルデ
指揮  アレクサンダー・ジョエル
演出  ウーヴェ・エリック・ラウフェンベルク
アンドレアス・シャーガー(トリスタン)、マグダレーナ・アンナ・ホフマン(イゾルデ)、パク・ヨンド(マルケ王)、カトゥーナ・ミカベリーゼ(ブランゲーネ)、アーロン・カウリー(メロート)、トーマス・デ・ヴリース(クルヴェナール)   他


ヘルデン・テノールの雄、ドイツが誇る最強ジークフリート、A・シャーガーの一人勝ち公演かと思いきや・・・。

ゾルデ役のM・A・ホフマン!
びっくりした。意外や意外、見事なイゾルデ! 「申し分ない」どころの話ではない、絶品じゃんか!「こんなところで、こんな逸材に遭遇か!?」みたいな驚嘆。

キャスト表に紹介されていたバイオグラフィを見ると、生まれはワルシャワだが、「ポーランドオーストリアのソプラノ」と紹介されているので、もしかしたら両方の国籍を持っているのかもしれない。イゾルデだけでなく、ブリュンヒルデ、ゼンタ、ジークリンデ、クンドリー、グートルーネ、マルシャリン侯爵夫人、レオノーレといったドイツ物の諸役は既にレパートリーとして手中にし、独墺を中心に活躍中とのこと。

へえぇー、知らなかったなぁ・・・。

4月のベルリンでは、ジークリンデを歌ったミクネヴィチューテという、やはり知らなかった歌手を目の当たりにし、お口がポッカンと開いた。今回もまたノーマークの歌手にクリーン・ヒットを打たれてしまった。やっぱり本場欧州は、才能があちこちに溢れている。

単純に、遥か離れた東アジアのオペラ三流国に情報が届かないだけかもしれないが・・。


シャーガーのトリスタンは圧巻の貫禄、流石の一言なわけだが、こちらはこれくらいやってくれて当然、十分に先刻承知だったので、今更驚きは無し。

思えば2013年11月。
東京フィルの「トリスタンとイゾルデ」コンチェルタンテ公演(チョン・ミョンフン指揮)トリスタン役で出演し、戦慄的な衝撃をもたらしたのがシャーガーだった。
あの時もめちゃくちゃ驚いたっけな。「シャーガー、何こいつ? いったい何者? すっげー!!」って。インパクトは今回のM・A・ホフマンの比じゃない。
翠星のごとく登場し、目ん玉から星が飛び出るかのような才能に奇しくも巡り合ってしまう機会こそ、クラシック鑑賞の醍醐味というわけだ。


シャーガーとホフマンの二人に対しては、終演後のカーテンコールで、爆発的なブラヴォーが飛び交った。私は、この場に居合わせ、劇場でほとばしった熱狂を肌で感じることが出来た幸せを噛みしめた。


話を開演前に戻すが、ピット内を覗くと、オーケストラ編成は「これだけ?」みたいな中小規模。ワーグナーとしては物足りない。ピットの容量という物理的な制約のせいかもしれないが、「これじゃ、薄っぺらい響きになってしまうのではないか」と心配だった。
ところが、その心配は杞憂だった。蓋を開けてみれば、立派にワーグナー上演として成立し、十分に聴き応えがあった。
指揮者の音楽作りが巧妙だったのか、あるいはオーケストラ奏者たちがこの劇場での鳴らせ方を熟知しているからなのか。

たぶん、その両方なのだろう。
いずれにしても、指揮者A・ジョエルは良い仕事をしていたと思う。
ネットで調べたら、とあるお方のブログ記事にて、「あのビリー・ジョエルの腹違いの弟」だと紹介されていた。ほんまかいな。


演出は、時代や場所の読替えというよりは、舞台を簡素化した抽象的、イメージ的なもの。可もなく不可もなく、という感じだが、変な読替えよりはよっぽど良い。
第三幕、最後のイゾルデの絶唱が終わった後、死んだトリスタンが息を吹き返すかのように起き上がり、イゾルデと手を取り合いながら後方に歩んで去っていく、というシーンは印象的だった。
この物語は、現世で叶わない愛の成就を手に入れるために死を選ぶ、というわけだから、理に適っている。ワーグナーの音楽にもピタリとマッチして、実に美しかった。