クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

エレクトラ

 R・シュトラウスのオペラ「エレクトラ」と「影のない女」には、共通点があることを御存知であろうか。
 それは「舞台に登場しない人物が、音楽上も物語上も重要な役割を担っていて、モチーフとなる旋律が付与されている」ということだ。
 これらのオペラを知っている方々なら、すぐにピンとくるだろう。「エレクトラ」におけるアガメムノン、「影のない女」におけるカイコバート。
 両オペラとも、冒頭にそれぞれのモチーフとなる旋律が奏でられ、これによって幕が上がる。音符はわずか3つだが、非常に印象的なテーマ旋律である。
 舞台には姿を現さないが、登場人物によって語られたり、示唆されたりし、そのたびにテーマ旋律が提示される。
 
 また、二人とも「父」であるという点でも共通している。
 
(R・シュトラウスのオペラでは、このように「登場はしないが、存在が示される」ものが他にもある。「ばらの騎士」における元帥、「ナクソス島のアリアドネ」における館の主だ。しかし、この両役は音楽的にはほとんど役割を担っていない。)
 
 
 さて、エレクトラについてであるが、このオペラには謎がある。
 すぐに思いつくのは、「親子関係が破綻し、殺意を抱くほどの憎しみを有しているのはなぜか」ということだろうが、私が指摘したいのはそのことではなく別で、一番最後のシーンだ。
 エレクトラが狂喜乱舞の後にバタッと倒れ、息絶える。その場に居合わせていたクリソテミスが何と叫ぶかといえば、「オレスト!オレスト!」なのだ。
 なぜオレストなのだろう? なぜ「エレクトラ!」ではないのだろう?
 しかも、だ。その時にオーケストラが鳴り響かせる旋律は、例のアガメムノンのモチーフなのである。
 
 これは実に興味深い事象と言える。いったいどういうことなのか?何か深い意味、意図があるのだろうか?
 もしかすると、このラストシーンは、オペラの核心なのかもしれない。
 
 もしそうならば、この謎を究明し、辻褄の合う解答によってオペラの真実を明らかにするのは、演出家の仕事ではないだろうか。これこそ演出家に果たされた課題であり、使命ではなかろうか。
 
 にも関わらず、私はこれまで10回以上このオペラの上演を見ているが、ここに迫ろうとした演出をほとんど観たことがない。
 
 クリソテミスの嘆き(あるいは呼び掛け)に呼応するかのように、オレストが姿を現すという舞台には何度か接したことがある。先日のエクサン・プロヴァンス音楽祭のP・シェロー演出でも、この場面で、呆然とした表情で座っているエレクトラの横をオレストが通り過ぎて、立ち去っていくという形だった。
 
 だが、オーケストラがモチーフを鳴り響かせるアガメムノンとの関連性にまで踏み込んだ舞台は観たことがない。
 
 もっとも、R・シュトラウスやホーフマンスタールが、そこまで考えて作ったのかどうかは分からない。たまたま、その旋律を使っただけなのかもしれないし・・・。
 
 
 ということで、私の「エレクトラの謎」の追求は今後も続く。