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2023/5/12 東響 エレクトラ

2023年5月12日   東京交響楽団   ミューザ川崎シンフォニーホール
R・シュトラウス   エレクトラ(コンサート形式上演)
指揮  ジョナサン・ノット
演出監修  トーマス・アレン
合唱  二期会合唱団
クリスティーン・ガーキー(エレクトラ)、シネイド・キャンベル・ウォレス(クリソテミス)、ハンナ・シュヴァルツ(クリテムネストラ)、フラン・ファン・アーケン(エギスト)、ジェームズ・アトキンソン(オレスト)   他


ノット&東響が、サロメに続き、またしても特大ホームランをかっ飛ばした!

昨年11月のサロメは名演だった。その名演は、もちろん東響の演奏も素晴らしかったが、タイトルロールのサロメ役アスミク・グリゴリアンの出演無しには成し遂げられなかった。
シュトラウス・オペラシリーズ第二弾となった今回も、そのタイトルロールにこれ以上ない強力なソリストを迎えた。

クリスティーン・ガーキー。
天下のメトロポリタン・オペラが誇る華、「ブリュンヒルデ」「トゥーランドット」などで追従を許さない輝きを放っているドラマチック・ソプラノだ。

ものすごいパワー。圧倒的な存在感。すべてを凌駕してしまうド迫力の歌唱。
かと言って、ただ大きく吠えているわけでは決して無く、高度な技術で声をコントロールし、繊細な響きも織り交ぜながら、オーケストラの巨大サウンドの波に声を乗せている。エレクトラはほとんどずっと舞台に出ずっぱりだが、集中力の高い演技を駆使し、およそ100分間、最後まで聴衆を釘付けにした。


東京で「エレクトラ」が鳴り響いたのは18年ぶりだという。
「なにをやってるんだか・・」と嘆かわしい限りだが、まあそれはさておき、その18年前に上演されたのは、東京・春・音楽祭(旧:東京オペラの森)、指揮:小澤征爾
この時、クリソテミス役で出演したのが、ガーキーであった。
年齢を重ねるごとにパワーが備わり、声も立派に成熟して、ドラマチック・ソプラノに変貌する歌手はよく見かけるが、ガーキーはその中でも頂点に上り詰めた一大成功者である。


ハンナ・シュヴァルツの出演も驚きだ。
79歳だという。信じられん。マジか。
衰えがあるかと言われれば、そりゃある。
だけど、そんなの当然だし、そもそも若い頃の全盛期と比較することに何の意味があるというのか。今のハンナ・シュヴァルツ、現在の立ち位置の中で、彼女の歌唱の中に確かな芸術性が見出された。それを手放しで称賛したい。


ジョナサン・ノットが振る東響の演奏も本当にお見事としか言いようがない。
ツイッターなどのSNSで、ノットのタクトについて「千手観音」と例えている投稿を見かけるが、その表現は絶妙。まさしくそのとおり。彼はどんなにスコアが複雑であっても、それがすべて頭の中で整理されていて、それをどのように導き出すかという手法が、首尾一貫かつ極めて論理的である。

さぞやリハーサルでは、ディティールにこだわって繊細に音楽を作っているのかと思いきや、楽団員の裏話を聞くと、意外と「サッと通し、あまり時間をかけない」のだという。
ということは、言葉よりも千手観音のタクトですべてを表現して、オーケストラのケミストリーを導いている、ということなのだろう。
逆に、そういう話を聞いて、東響の演奏能力の高さ、瞬発適応能力が優れている証左と、改めて感心した。ノットも、そのことを十分に分かっているのだ。


今回、外国人の主要キャストに隠れる形で、侍女役で出演した日本人の女性陣が、実は二期会の看板歌手たちであった。増田のり子さん、金子美香さん、谷口睦美さん、池田香織さん、高橋絵理さん、田崎尚美さんといった面々は、もし二期会エレクトラをやったら、そのまま「エレクトラ」「クリソテミス」「クリテムネストラ」といった主役を任されるだろう。
日本のトップ級であっても、今回の外国人招聘歌手の名唱は刺激を受けたに違いない。
特にメゾである池田さんと金子さんにとって、ハンナ・シュヴァルツとの共演は素晴らしい記念になったのではないだろうか。