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2013/4/13 N響A定期

2013年4月13日  NHK交響楽団定期演奏会   NHKホール
指揮  ピーター・ウンジャン
ヴィクトリア・ムローヴァ(ヴァイオリン)
ショスタコーヴィチ  ヴァイオリン協奏曲第1番
ラフマニノフ  交響曲第2番


 ムローヴァの初来日公演に私は行っている。1984年だったから、もう随分と昔だ。
 シベリウスチャイコフスキーといった難関国際コンクールを次々と制覇した彼女は、その実績を引っ提げて日本にやってきた。リサイタルとコンチェルト(新日本フィルとの共演)の両方に足を運んだが、確かな技巧、一分の隙もない完璧な演奏に唖然としたことを覚えている。また、西側に亡命したとはいえ、いかにもソ連出身的なクールな佇まい(愛想笑いをしない硬い表情、飾り気のない振る舞いなど)に、底知れぬ神秘性と天才のオーラを何となく嗅ぎ取ったものだ。

 瞬く間に世界のトップヴァイオリニストの一人に成長し、1992年にはアバド指揮ベルリン・フィルソリストとして来日して、ブラームスのコンチェルトを披露している。そのまま王道を歩んでいけば、ムターと女王の座を争うくらいの地位を築いたはずだ。

 それなのに、ムローヴァさんときたら・・・。その後、自らのキャリアの方向性を思い切り変えてしまった。古楽奏法を取り入れたバロック音楽に傾倒するのはまだいいとして、ジャズやポップスのバンド活動まで始めてしまった。

 とやかく言っても仕方がないが、本格派ヴァイオリニストの道を堂々と歩んでほしかった私としては、少々がっかり。2001年のドイツ・カンマーフィル・ブレーメンとの来日公演を最後に、実演に接する機会が遠退いてしまった。

 今回、彼女自身久しぶりの来日公演であると同時に、私の大好きなショスタコのコンチェルトということで、期待が高まった。はたしてマルチ路線によって彼女は変貌してしまったのか、それとも依然として本流ヴァイオリニストであることを証明してくれるのか。

 ステージに颯爽と登場したムローヴァ。細身ですらっとしたスタイル、凛とした風格は以前と変わっていない。切れ味するどい演奏も全く変わっていない。研ぎ澄まされた集中力も華麗なテクニックも健在。かつて私が大いに驚き、大いに魅了されたムローヴァがそこにいた。素晴らしかった。うれしかった。
 この日、私と同じような期待を抱いて来場した人も多かったのではないだろうか。みんな大いに安堵し、喜んだことだろう。演奏終了後の盛大な拍手とブラヴォーの歓声がそのことを表していた。

 ムローヴァがお目当てだったので、メインの交響曲は特段の期待もしていなかったが、予想外に楽しめた。指揮者ウンジャンは、ラフマニノフの魅力である旋律の美しさ、耽美さを最大限に引き出し、シンプルにそれを全面に押し出した。その結果、簡潔明瞭で分かりやすい音楽となった。ムード音楽のようにも聞こえたが、考えてみれば、もともとそういう曲である。それでいいだろう。

 それにしても、N響はこの曲との相性がいい。かつてスヴェトラーノフやプレヴィン、パーヴォ・ヤルヴィらとの演奏によって、この曲をレパートリーとして完全に手中に収めた結果なのだろう。