2013年2月22日 ルーヴル宮音楽隊グルノーブル 東京オペラシティホール
指揮 マルク・ミンコフスキ
グルック 歌劇アウリスのイフィゲニア序曲(ワーグナー編曲版)
シューベルト 交響曲第7番 未完成
モーツァルト ミサ曲ハ短調
当ブログにお越しいただいている方の中には、諸々の事情により本公演に行かれていない方もたくさんいらっしゃるはずで、こういう言い方はちょっと如何なものかとは思うが、それでもやっぱり言わせていただくと、「絶対に聞くべき公演」「聴き逃してはいけない公演」だと思う。この日の公演、というより、「ミンコ&ルーヴルのコンビの公演」を聞くチャンスがあったら、それを逃してはならない。万難を排して足を運ぶべきである。
なぜかというと、他では決して聞くことが出来ない唯一無二のサウンドがそこにあるから。
古楽奏法を取り入れ、バロック音楽を中心に活動する楽団は世界にたくさんあるが、革命児ミンコフスキが手兵とともに一から練り上げた音楽は、個性的、革新的という点で群を抜く。それは、やや手詰まり感の漂うクラシック音楽界に吹き抜ける風であり、差し込む陽であり、輝く虹である。
「ルーヴル宮とのコンビ」というのが重要だ。
ミンコフスキは今や世界的な知名度を誇り、他のオーケストラへの客演も多い。今年の5月にはウィーン・フィルへの登場も決まっている。(昨年はオーケストラ・アンサンブル金沢にも客演した。)
だが、リハーサル回数も限られた客演コンサートで、ミンコが考える音楽水準にいったいどれほど到達できるというのか。
客演ではダメなのだ。
彼の音楽の忠実な下僕となり再生装置と化しているルーヴル宮音楽隊じゃなきゃダメなのだ。
あのサウンドは、ミンコフスキが長年にわたり手塩にかけて作り上げ、ついに完成した結晶そのものである。
(調べもしないで書いているが、そもそもルーヴル宮音楽隊グルノーブルって、ミンコフスキ以外の指揮者を招聘した独自の定期公演活動を行なっているのだろうか?)
演奏された曲はもちろんどれも素晴らしかったが、やはりメインのミサ曲が出色。たった10人のコーラス(ミンコフスキは「コーラスではなく、ソロを10人揃えた声楽アンサンブル」と説明している。)が織り成す瑞々しさ、清々しさは驚異的。端正であり、透明であり、颯爽としている。まさにミンコフスキでなければ成し得ない緻密なアンサンブルであり、真骨頂を示すものだった。
演奏後はいつもと同じように、指揮者の「いち、にの、さん」に合わせて、楽団員一斉にお辞儀。ちょっとしたことだが、こんな気遣いもミンコらしくて微笑ましい。
感動、というよりも、幸福感に包まれ、生きる歓びを味わうことが出来た最高の一夜だった。