Kくんから地球の歩き方を手渡され、「はい、これでどこに行きたいか決め、予習しなさい。」と命じられた。
「あら? すべてキミに任せたつもりなんだけど?」
仕方がないので適当にパラパラとめくり、すぐに返却しながら一応リクエストした。
「シカゴ交響楽団のコンサート会場である『国家音楽廳』には、夜の公演の前に、昼間に一度行っておきたい。場所を確認したいし、写真も撮っておきたい。あとは・・・。そうだなあ、いかにも台湾という伝統的な寺社には行ってみたい。龍山寺とか、行天宮とか。そんなところかなあ。じゃ、よろしく~。」
「やれやれ」と思ったかどうかは知らないが、これで彼の頭の中で大まかな観光スケジュールが固まったようだった。
タイペイ二日目。薄曇り、薄晴れ。
実質的な市内観光初日である最初の訪問先は、「忠烈祠」。前夜のレストラン探しで安くてお手軽なタクシー利用にすっかり味をしめた我々は、この日もさっそくタクシーに乗り込み、目的地に直行。
午前9時45分到着。何気なく移動しているようでいて、実はKくん、しっかり時間を考慮し、計っている。お目当ては毎正時刻に行われる衛兵交替式。ああ、ロンドン・バッキンガム宮殿とかでも行われる例のやつね。
忠烈祠は抗日戦争などで国に忠誠を尽くした将兵の霊を祀っている場所で、軍が管理し、衛兵が守っている。その衛兵の交代が一時間ごとに行われているのである。
しばし建物や景色を見学し、写真を撮っていたら、来た来た!やって来ました衛兵が!勇壮な軍服、迫力のある行進、一糸乱れぬ統制、うお~、かっこいい!!
この儀式はすっかり名物となっているようで、観光客が衛兵の後を追い、あるいは先回りし、写真に収めている。Kくんによると、前回来た時はもっとすごい人だかりだったそうで、今回はそれほどでもないとのこと。それでも大勢のギャラリーが、行進している衛兵を取り囲む。付き添っている係員が見物客を制し、交替式が滞りなく進行するように目を光らせている。
いや、それにしてもカッコいい!思わず見とれてしまった。感動しました。
再びタクシーに乗って、次の目的地「孔子廟」へ。あの有名な孔子が祀られている廟。日本で言えば、さながら学問の神様:菅原道真が祀られている湯島天神みたいなものか。学問からすっかり遠ざかっている我々はもう縁がないのう。
見学していたら、雅楽のような音楽が聞こえてきた。録音をスピーカーで流しているのかと思ったら、一角でミニ合奏団が生演奏をしていた。連中は何者だ?愛好家なのか?練習をしているのかそれとも参拝客に披露しているのか?謎であった。
MRTに乗って、中正紀念堂へ移動。広大な公園敷地内に、蒋介石の銅像が設置されている紀年堂、コンサートホールの国家音楽廳、演劇ホールの国家劇院の3つの建物がある。シカゴ響の公演はこのうちの国家音楽廳で開催だ。
まずはとにかく写真をご覧あれ、国家音楽廳の堂々たる外観を!
これがコンサートホールなのだ!中身はパイプオルガンも備わる本格的コンサートホール、外観は伝統様式に基づいた格調高い歴史的建造物。実に素晴らしいではないか!
それに比べて東京の節操のないことよ。古い建物を壊し、近代的で機能的だがどこにでもある味気ないビルを建てていく。サントリーホールなんて、内装は美しく音響も優れているが、外観的には何の特色もないもんなあ。新国立劇場もまたしかり。
中正紀念堂は、正面入口階段が工事中で閉鎖されていた。中に入れず残念と思っていたら、建物の横にも入口があって、そこから入場することが出来た。「お?見学できるじゃん?」と思っていたちょうどその時。
何やら人だかりと物々しい音が。好奇心に駆られて近づいてみると・・・おお!先ほど見学したばかりの衛兵たちではないか!勇ましい行進の真っ最中。どうやらここでも交替式が行われるらしい。時計を見ると、午前11時50分。間違いない!
衛兵は蒋介石の銅像が鎮座する上階に上がるため、エレベーターにまっしぐら。なんだ、兵隊たる者、階段で歩いて登らないのか?(笑) で、彼らと共にぞろぞろと付いて行く観光客が、係員の誘導で階段を指図される。ちっ。
仕方なく我々も階段を登り、蒋介石の広間に到達すると、そこには既に衛兵を待ち構える多くのギャラリーが。
エレベーターのドアが開き、衛兵たちが到着。またまた見られました交替儀式。うひょーカッコいい!いやいやラッキー。
大満足して紀年堂を後にし、ここでランチ。昨日は牛肉麺だった。本日は何を食べさせてくれるですか?Kくん。
本日は「ルウロウハン」だそうです。やはり事前にリサーチした口コミ評判店に連れて行ってくれた。しかも中正紀念堂のすぐ近く。本当にぬかりないなあ、おぬし。
お店に行くと、人だかりになっていて列を作っている。まるで評判の人気ラーメン店みたい。
「えー!?並ぶのかあ、参ったなあ・・・。」
それとなくKくんをチラ見したが、彼は「どんなに待ってでも、絶対ここで食べる」的な揺るがぬ雰囲気。わかりやした。並びましょう。トホホ。
だがいざ並んでみると、前の人はどんどんはけて進んでいく。吉野家の牛丼のように回転が早いみたいだ。
ルウロウハンは、豚肉そぼろ掛けご飯みたいな感じの食べ物。はっきり言ってB級グルメだね。でも台湾人が愛してやまない名物大衆料理なんだろうね。
付け合わせものとスープを加えても一人400円もしない。安っ! おまけにお会計の際、店員のオバちゃんが計算ミスし、更に安くあがってしまった。指摘なんてするわけないでしょう。こちとら外国人で中国語全然わかんないもんねー。けっけっ。
目を引いたのは参拝客のお祈りの仕方だ。日本のように、お賽銭箱に小銭を入れ、略式で手を合わせ、お祈りしてハイおしまい、という感じではまるでない。
祈りに気合が入っている。真剣そのものである。長いお線香を焚きながら、一心不乱に唱え、念じている。これぞまさしく「信仰」というのだろう。かなり面食らった。
龍山寺を離れ、次の目的地に移動するところで、ちょっとしたトラブルに遭遇してしまった。
MRTの龍山寺駅で、私が所持していたチャージ式カード(SUICAやPASUMOと同じ)が読み取り機ではじかれてしまい、改札を通ることが出来ないのである。チャージ残高は十分にあるにもかかわらず、何度トライしてもダメ。Kくんは私がそういう事態に陥っていることなどつゆ知らず、てっきり私が後ろから付いてきているものと信じこみ、後ろも振り向かずにどんどんホーム内に進んでいってしまった。あっという間に離ればなれ。ヤバい。
とにかくカードを正常に戻してもらわないと。窓口に並び、係員にトラブルを説明。ここまであらゆる場所で日本語が通用していたので、駅でも間違いなく大丈夫だと思ったら、なんと、日本語アウト。英語もアウト。うっそ~!?
身振り手振りで必死に説明し、ようやくカードを正常に戻してくれた。改札を通り、Kくんを探すが・・・いない。ホームに降りて探すが・・・いない。再び改札付近に戻って探すが・・・いない。やばい、本当にはぐれたか?まさか電車に乗って先に行ってしまったなんてことは・・・そんなバカな。
もう一度ホームに降りた所で、エスカレーターで降りてくるKくんを発見!よかった!
Kくんに事情を説明。まさか私が改札でトラブっているとは思わず、ホーム内で見失ったと思い、ずっと探し回っていたとのこと。その彼も「まさか先に電車に乗って行かれたか?」と一瞬思ったとのこと。
まあ最終的には、二人とも携帯電話を所持していたので、割高料金を覚悟して海外通話すればよかったのであるが。とにかく良かった。
ホッとしたところで観光に戻り、「行天宮」へ。三国志に登場する関羽が祀られている。ここも龍山寺と同様に熱心な参拝客で溢れ、皆一生懸命に祈っている。何やら破片のかけらみたいな物を地面に投げている人を多く見かけたが、これは占いなのだとか。ふーん。
この日、タイペイの代表的な寺社を3つほど巡ったが、最後にはだんだん飽きてしまった(笑)。トラブルにも遭ったしね。もういいですかね、今日は。帰りますか?
タクシーでホテルに戻り、午後3時半着。夜のコンサートに備え、ゆっくり休んだ。