全日空便タイペイ行きの飛行機は高度を下げ、着陸態勢に入った。機内の窓から、眼下の台北市内を眺める。当たり前だが、建物などの市内の景色が普段見慣れているヨーロッパのそれと全然違う。「ああ、アジアに来ているんだなあ。」という感慨と興奮。近年、すっかり慣れきってしまって、空港に降り立つくらいでは何の感動も沸かない私。こういうワクワク感はいったいいつ以来だろうか。
定刻より少し早い午後0時半に台北松山国際空港に到着。天気がどんよりした曇りだったのは少々残念だが、気温は15度くらいと過ごしやすい。
この松山空港(「マツヤマ」ではなく「ソンシャン」と言うらしい)は、ほぼ市街地内という絶好のロケーションで、中心部へのアクセスが最高だ。世界を見渡してみても、首都レベルでこれほど便利な空港はそう多くないだろう。元々は国内線専用で、羽田を始めとする国際線が開通したのは、比較的最近のことだそうである。
入国して、さっそくKくんに尋ねる。なにせ、あたしゃタイペイについて何一つ予習してこなかったからね。
「これからどうやって市内に入るの?」
「MRTに乗るよ。」
「なにさ、そのMRTって?」 (※ 市内公共交通機関。地下鉄と一部の路線が高架式。)
「切符はどうするの?一日券とかあるの?」
「ふーん。それってお得なの?いくらなの?」
一事が万事、こんな感じ。いやあ、お膳立てされている旅行というのは楽だのう。
我々のホテルは、松山空港からMRTで乗換無しの4駅目「大安」で下車し、徒歩わずか1分の「パーク・タイペイホテル」。あっという間に到着した。なんという近さ!
チェックインすると、綺麗で、設備やアメニティグッズも整い、テラスからはタイペイのシンボル「101タワー」が望めるという最高の部屋!こりゃすげえ。
驚いていると、Kくんは「そういうことも含めて、全て入念に検討して決めたんだよ。」と言わんばかりに、誇らしげにニヤニヤしてやがる。はいはい、参りました。すべてキミのおかげでござんす(笑)。
荷物を降ろし、さっそく市内に繰り出す。タイペイ最初の観光は、「昼メシ!」。そう、ここタイペイはグルメも立派な観光の一つなのである。
向かったのは「牛肉麺」の地元人気店。ここもやはりKくんが口コミ評判の高かったお店をネットで事前リサーチして選定。(何でも、出発前夜に色々と調べていたら、午前3時になってしまったのだとか。ご苦労なこったが、寝坊の心配をしなかったのか、Kくんよ??)
牛肉麺なる食べ物はもちろん私は知らなかったが、タイペイの名物料理だそう。名前からいかにも脂っこそうなこってりラーメンを想像したが、意外にもあっさりとして、麺もうどんタイプ。なるほどねー。美味しゅうございます。何よりも安い!200円くらいで食事が出来てしまうのである。こりゃいいね。
店員さんは流暢とは言えないまでも、ちゃんと日本語を話す。決して観光客用のお店ではないのに。うーむ、驚きである。
「なぬ?いきなり郊外に行くの?マジ?」
実は、ここでもKくんのぬかりない計算が働いている。九份は山の中腹にあるちょっと寂れているがどこかノスタルジックな温泉街みたいな所で、夕闇が迫ると軒先の提灯に明かりが灯り、幻想的で情緒に満ちる。その夕刻の雰囲気を味わうためには、初日であるこの日しかチャンスがないのだ。(翌日はコンサートが入っているため。)
さっそく狭い路地にひしめく屋台をひやかし、買食いしながらお散歩。大勢の観光客で溢れていて、さながら縁日のような賑わい。
その時、屋台からの美味しそうな匂いに混ざって、突然、肥溜めのような強烈な異臭が鼻を突いた。ものすごく臭いっ!なんだこれ!?
ご存じの方もあろう。異臭の元は、発酵させた豆腐を煮込んだ料理「臭豆腐」。これも台湾の名物料理の一つ。
マジか?食い物なのか?本当に食えるのか?いや無理、絶対無理。
せっかくの夜市や屋台の思い出が、この異臭とともに刻まれかねない。逃げるようにその場から離れた。
観光のハイライトは、人気台湾映画の舞台にもなり、「千と千尋の神隠し」に登場する湯婆婆の家のモデルになったとも言われる建物。観光客、ツアー客はみんなここに集まり、立ち止まり、写真を撮って去っていく。
我々も写真を撮り、その後すぐ隣りのお茶屋さんで休憩。単なる喫茶店かと思ったが、そこは中国茶を正統的に楽しむお店であった。(もちろんここもKくんのリサーチ済の店。っていうか、前回来た時もここに立ち寄ったらしい。)
店員さんが正しいお茶の入れ方と作法を丁寧に日本語で教えてくれる。「ふーん。はーい。はーい。」とチョー適当に返事をする私。一杯飲んで、すぐに茶葉を入れ替えようとしたら、すかさず見つかってしまい、「ダメですぅ、早いですぅ、5杯で入替えですよ!」とピシャリたしなめられてしまった。うえっ、厳しいのう。
バスで引き返し、午後8時半に台北市内のホテルに戻った。さて、ディナーである。
KくんはKくんなりに、どこで飯を食うかそれなりに頭を巡らせていたのだと思う。
それならば、とインターネットで調べてみると、そういうちゃんとしたお店は大半が午後9時とか午後10時で閉店してしまうことが判明した。このため、適当なお店がなかなか見つからない。そうこうしているうちに時間はどんどんと経過し、午後9時を回ってしまった。
仕方がない。こうなったら、ホテルのレセプションの人に尋ねよう。お薦めのお店を教えてもらおう。それが最善の策だと思った。
レセプションのお兄ちゃんに聞くと、さっそく教えてくれた。
「牛肉麺のお店で・・・」
いや、あの、その、スミマセンが、牛肉麺は昼に食ったのですけど・・・。
「ああ、そうですか。それならば・・・」
そうして教えてくれた一軒のお店。ホテルからまっすぐ歩いて5、6分とのこと。ちゃんとお店の名前を書いてもらったので、間違うことはない・・・のだが・・・。
歩けど歩けど、見つからない。おいおい、もう10分も歩いているぞ。こりゃあかん。ダメだ。まったくホテルの従業員の兄ちゃん、適当なやっちゃなあ。
このままあてもなく彷徨っていても時間の無駄。最後の手段、かくなる上は、個人旅行のバイブル書「地球の歩き方」にすがろう。
ホテルの部屋に引き返し、本のレストラン項目をめくって検索開始。ちゃんと夜遅くまで開いているお店がいくつか紹介されている。その中から良さげな台湾料理店をピックアップ。ただし、とても歩いては行けない。どうやって行くかって?決まってるじゃん、タクシーだよ。タイペイはタクシーが安いので、いざという時の足になるんだよ。
タクシーの運ちゃんに地球の歩き方を見せ、そこに行ってもらう・・・が・・・。
到着して辺りを見渡しても、そんな店などありゃしない。日本語を話せない運ちゃんは中国語で我々に「本に書いてある住所地はここだよ。」と言うのだが、目的のお店がそこにない以上、ここで降ろされても路頭に迷うだけだ。
しびれを切らした運ちゃんが「地球の歩き方」を持って車を離れ、人に聞きながら探し回ってくれた。だが、見つからない。要するに、閉店してしまったということだ。
Kくんがぼやく。「その店、前回も行ったんだよなあ。」
シャラップ。そんなこと言ってられないのだ。このまま夜食難民になってもいいのか?
運ちゃんに英語で「(お店を)チェンジ!」と告げた。だが、運ちゃんはポッカ~ン。伝わらない。おいおい、いくら英語を話せないといっても、「チェンジ」の単語くらい分かるだろ?知らんのか?
地球の歩き方を再び提示し、ようやく理解した運ちゃんは、アクセルを踏みハンドルを切り、次の店に向かった。
結局、どれくらいタクシーに乗っただろう。20分くらいか?30分くらいか?日本でこれだけ乗り回したら、軽く3千円は超えるだろう。だが、請求された額は250元。約800円。初乗り料金か!?(笑)
午後10時半、すったもんだの挙句、ようやく我々は夕食にありつくことが出来た。しかも本格中華。うれしい!
料理はこれまたKくんに完全任せ。私はというと、台湾ビール大瓶2本を注文。初のタイペイの夜にかんぱーい!高級店らしく値段は張ったけど、それでも日本に比べれば安いし、美味しかったし、ノープロブレム。
食事を終え、再びタクシーでホテルに戻り、近くにあった「ファミリーマート」(日本のコンビニがそこら中にある)で缶ビールとカッパえびせんを買い、ホテルの部屋で二回目のかんぱーい。既に午前0時を回っている。長~い一日がようやく終わりました。