ドニゼッティ ランメルモールのルチア(コンサート形式上演)
指揮 ワレリー・ゲルギエフ
合唱 新国立劇場合唱団
公演概要発表の時点では行くつもりがなかった。チケットを買ったのは、発売開始後かなりたってからである。ゲルギエフ&マリインスキー歌劇場、ドニゼッティ、そしてナタリー・デセイという組み合わせが、どうにも取って付けたような違和感がして、しっくりこなかったのである。
思い直して正解だった。
最大のハイライトはもちろん狂乱の場による長大なアリアの場面。‘本当に’狂乱するデセイのルチアを、聴衆は息を殺し、固唾を飲んで見守った。
(ところで、だいぶ前にNHKで放映されたリヨン国立歌劇場によるフランス語版「ランメルモールのリュシー」の映像を御覧になった方がいるだろうか。収録は10年前の2002年。リュシー(ルチア)を歌っているデセイがこれまた凄い、ヤバい。完全に取り憑かれている。衣装がはだけちゃって、胸がほとんど露わになりそうなくらいなのに、デセイはお構いなく没入して歌っている。さすが‘歌う女優’である。)
この狂乱の場面ではもう一つ見せどころがあって、フルートではなく、本物のグラスハーモニカの演奏によるアリアとの掛け合い。グラスハーモニカの演奏をまざまざと見たのは初めてかもしれない。音楽的にはなんとも言えない神秘性を醸しだして良かったかもしれないが、視覚的には「デセイだけを見ていたい。だけどグラスハーモニカの演奏技法も気になる。」みたいになって、少し集中力を削がれてしまったのが玉に瑕。いや、演奏者には何の罪もありませんが。
「ゲルギエフなんかどうでもいい」とか上で書いたけど、やっぱりゲルギエフはさすがだった。いろいろ情報を見てみると、どうも当日にリハを一回やっただけのほとんどぶっつけ本番だったようだが、それをまったく感じさせないところがさすが。
普段の劇場の音響との違いを敏感に察知しながら、音量バランスをしっかり取っていた。また、時にテンポを疾風快速のごとく煽っていたが、これもコンサート上演ならではで、とても面白く聞けた。
デセイ以外の歌手については、それなりに実力を見せたとは思うが、やっぱりデセイの引立役に回らざるを得なかったのは、これはもう仕方がないのだろう。大丈夫、ルチアというオペラを聴いたという充足感、満足感は大いに得られたので、それで良しとしてほしい。
明日はヌッチ、明後日はソフィア歌劇場・・・。ああ忙しい・・。でも充実感がいっぱい。