トスティ 魅惑 / 私は死にたい / マレキアーレ / 君なんかもう
ヴェルディ 二人のフォスカリより「ああ、年老いた心臓よ」、イル・トロヴァトーレより「君の微笑み」、椿姫より「プロヴァンスの海と陸」、仮面舞踏会より「お前こそ魂を汚すもの」、エルナーニより「おお、若かりし頃の」
グルベローヴァに続き、東京でまたもや円熟した名歌手の至芸を堪能できる幸せ!
イタリアの至宝、人間世界遺産、生ける伝説レオ・ヌッチ、70歳。
(この例えって、ちょっと如何なものか?)
・・・まあいい。
要するに、その世界における神様みたいな存在ということだ。
だというのに、モーストリー・クラシックの男声現役ランキングで、1位のフローレス、2位のドミンゴはまあいいとして、ヌッチはヨナス・カウフマンの後塵を拝する第4位だってよ。ヌッチに比べたらカウフマンなんて単なるジャニーズのアイドル歌手みたいなもんじゃんか。まったく評論家のアホどもめ。
今回の公演、私は非常に嬉しかった。
何が嬉しかったって、ヌッチの歌に対する反応が、拍手歓声が、イタリアを始めとするヨーロッパ各地でのヌッチに贈られるそれと同じだったのだ。会場に集ったお客さん全てがヌッチの究極の歌唱芸術を心底理解しているのだ。非常に耳が肥えていた。
どうしてお客さんのレベルがこんなに高いのだろう、と不思議に思ったのだが、最後にその理由が判明した。
大いに盛り上がったアンコールの最終曲、ナポリ民謡「オー・ソレ・ミオ」にて。
ヌッチは、あろうことか、会場のお客さんに合図をし、一緒に歌うことを促したのだ。
いや、ちょっと待て。ほとんどの人はこの曲を知っているし、メロディを口ずさむことができる。
だが、だからといって、さびの部分の「オー、ソォ~レ、ミィオ~」はいいとしても、ちゃんと歌詞を憶えているはずがなかろう。イタリア語だぜ!?そんな、促されたって歌えるかよ。
ところが、である。多くの人たちがヌッチの促しに呼応して歌い始めたのである。イタリア語で。うっそ~!?
要するに、声楽家だったり、歌を勉強している人だったり、音楽を知っている人が多く集っていたのだ。そういう方々にとって、ヌッチは「しっかり聞いておくべき師匠」であったということだ。
私もヌッチの歌を聞いて、彼の真摯な生き様まで見えてきて、ただただ平伏。誠に恐れ入りました。