指揮 ウラディーミル・フェドセーエフ
なんで変えてしまったかなあ。いくらロシア文化省や国際チャイコフスキー協会などから「チャイコフスキー記念」の称号が贈られたとはいっても、それをそのまま楽団名にしてしまうと、偉大なネームバリューにすがりたいという魂胆を持った新興オーケストラのように見えてしまう。モスクワ放響は巨匠フェドセーエフと共に歴史を築き、既に十分な知名度を有している。フェドとのコンビが続く限り、モスクワ放響の名が廃れることはないと思うのだが・・・。
もっとも、名前が変わっても、素晴らしいサウンドは決して色褪せていない。コントラバスの低音がずしりと効いた重量感。怒涛の迫力の御パーカッション。極めつけは、高い技術であらゆる音楽に対応可能な万有の音色を紡ぎだす木管楽器。クラリネットやフルートの再弱音(弱くても決して痩せない音)には背筋がゾクゾクしたし、ファゴットのこれまで聞いたことないくらい太く大きい音には心底驚いた。モスクワ放響・・あ、違った、チャイコフスキー・オーケストラは今も昔もスーパー軍団であることに変わりがない。
一つ指摘するならば、以前は「いかにもロシア弁丸出しの土着民族風サウンド」がウリだったが、垢抜けて洗練されてきた。これは好ましい一方で、一抹の寂しさも。
そして指揮者のフェドセーエフ。彼を抜きにしてこのオケを語ることは出来ないだろう。今回のツアーは彼の80歳を記念してのものだという。でも、少しも年齢を感じさせることがない。何よりもエレガント。彼のタクトには男の色気が漂っている。指揮法では「右手で拍子、左手で表現」と言われているらしいが、棒を持たない彼のタクトは「右手でも、左手でも表現」。しかも、決して力任せに振らないので、その姿は優雅なダンサーのように美しい。
実は、ショスタコ10番は、前回2006年5月の来日公演でもやっている。もっと言うと、2003年9月にも東フィルの公演でもこの曲を取り上げている。フェドさん、この曲がお好きなのかしら??次回は別の交響曲をお願いします(笑)。
でも、この日の客席はガラガラ。やっぱりショスタコじゃ厳しいか・・・。寂しいのう。