2017年5月24日 NHK交響楽団 水曜夜のクラシック NHKホール
指揮 ウラディーミル・フェドセーエフ
ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)
ショスタコーヴィチ 祝典序曲
チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番
ベレゾフスキーのピアノには唖然とした。余裕綽々、軽々と平然と弾きこなす呆気なさ。まるで狐につままれたような、一瞬の出来事だった。
チャイコのコンチェルトは名曲である。名曲であるがゆえに、大抵のピアニストはピアノに真剣に立ち向かう。この曲を弾くということは、勝負するということなのだ。
ベレゾフスキーが真剣じゃないとか、テキトーだとか、手を抜いているとか、決してそういうわけではないのだが、あまりにも完全に手中に収めてしまっている。その結果、物凄いテクニックを駆使しているにも関わらず、スリリングさが微塵もない。
まあなあ・・・。チャイコフスキー・コンクール覇者だもんなあ。これまでのキャリアの中で、いったい何度弾いたことか。余裕綽々なのは当然なわけだ。
これは「あんたの好み」とか「勝手な尺度」とか言われても構わない。チャイコのコンチェルトは、少々気負ってほしい。猛り立ってほしい。多少演技が入ってもいいから一心不乱に鍵盤を叩いて、会場の熱気を上げてほしい。どうもすみません。
その他はフェドさんのお得意のロシア物。スペイン狂詩曲は、まるでファリャの音楽を聴いているかのように民族色が出ていたし、普段なかなか聴けないフランチェスカ・ダ・リミニは、秘蔵の名曲であることを証明してくれたし、本当に素晴らしいプログラムだったと思う。
だが、この日のハイライトは、なんとアンコールで起きてしまった。
ハチャトゥリアンのガイーヌよりレズギンカ。ボルテージは一気に沸騰。熱狂に包まれ、最後のたった一曲で、それまでのすべてのロシアンプログラムの味わいをかき消してしまった。
思い返せば、フェドセーエフ、これまでに手兵の旧モスクワ放送響を率いて来日すると、アンコールで何度も怒涛の爆演を聴かせては、聴衆の度肝を抜き、昇天させたものだった。
先日のN響定期公演の感想記事で、私は「昔のフェドを懐かしんでいる」と書いた。そうした昔のフェドをまさに彷彿させたアンコール演奏。狂喜乱舞いたしました。