クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2012/10/8 新国立 ピーター・グライムズ

2012年10月8日  新国立劇場
指揮  リチャード・アームストロング
演出  ヴィリー・デッカー
シュチュアート・スケルトン(ピーター・グライムズ)、スーザン・グリットン(エレン)、ジョナサン・サマーズ(バルストロード)、キャサリン・ウィン・ロジャース(アーンティ)、久保和範(スワロー)、加納悦子(セドリー夫人)   他
 
 
「尾高さんが新国立の芸術監督に就任」というニュースを聞いて、「ということは、ブリテンのオペラが上演されるかな?」と期待したファン(マニア?)が少なからずいたのではないだろうか。
 もちろん私もその中の一人。イギリス音楽に造詣が深い尾高さんなのだから、そりゃもう当然の期待である。で、数あるブリテンのオペラの中から新国立で最初に採り上げる作品となれば、それはやっぱり「ピーター・グライムズ」になるのだろうな。
 
 ピーター・グライムズ - ブリテンの代表作の一つ。なおかつ20世紀を代表するオペラの一つと言っても過言ではない。
 にもかかわらず、日本では数えるほどしか上演されたことがない。なぜ??名曲だぞ!?椿姫ばかりやってる場合じゃないだろ!?(またまた出てしまいました、毎度のツッコミ)
 
 今回、鑑賞した多くの人が、きっと次のような感想を持ったに違いない。
「初めて観た(聞いた)が、こんなに素晴らしいオペラだったとは!!」
 
 そう、そのとおり。ピーター・グライムズは真の傑作だ。音楽も物語も、共に素晴らしい。深い。そして泣ける。第三幕で、またしても徒弟を死に追いやってしまったピーターがモノローグを歌う音楽。あるいは最終場面で、バルストロード船長に促され、死を覚悟して沖に出ようとするピーターの後ろ姿。もう、涙なしでは見ることが出来ないのである。
 
 プロダクションを海外から借り受けて上演したのも、ワタシ的には全然問題ない。単独で制作するのが大変なのだったら、どんどん借りてしまえ。世界には一度上演されただけでその後お蔵入りしてしまった優良プロダクションがたくさんある。もったいない話だ。
 ということで、今回のデッカー演出版も、とても良かった。演出家が作品を深く鋭く読み込み、この物語の真相を探求しようという姿勢が強く感じられた。
 
 このオペラに造詣が深い人なら、作品に潜む重要なポイントが「孤独」そして「ムラ社会における閉鎖的な群集心理」であることを知っている。そして、デッカーも、迷うことなくそこに切り込んでいった。
 固まりになって行動し、固まりになって仲間外れを作り、後ろ指を差す村人。一人ひとりは悪い人ではないのに・・・群集心理の恐ろしさ。いじめが起こり、コミュニティに馴染めない人間が疎外されることが社会問題化する現代において、無関心ではいられない物語であり、心が締め付けられる。
 今回の演出では、救いとなるはずのエレンまでもが結局は群衆の一員として埋没してしまうという解釈だった。個人的には悲しく残念な結末だったが、鑑賞後の後味に強いインパクトが残ったので、結果的に演出家の主張に押し負かされた印象だ。
 
 それにしても、シンプルな舞台装置の中で、演技や動きだけで人間の深層心理に迫っていくデッカー演出の見事なこと!全ての演技や動きが考えぬかれたもので、明確な意図により一貫性が保たれている。このため舞台に緩慢さがなくなり、終始緊迫感に包まれている。
 聞くところによると、レンタル再演であるにもかかわらず、売れっ子演出家デッカーは来日し、演技指導を行ったとのことだ。(初日のカーテンコールには登場したらしい。)
 
 影の主役である群衆を担った新国立劇場合唱団も素晴らしかった。相当にトレーニングを積んだであろうその成果が発揮されていた。きつい傾斜がある舞台で、あれだけドラマにのめり込む演技を行いながら、それでいて音楽的に全く崩れない強固さは称賛に値する。ある意味イタリア語よりもドイツ語よりも難しい英語のディクテーションもしっかり克服していたと思う。
 
 海外から招いた主役のソロ歌手たちは、さすがイギリス系と言えるもので、安定していた。一人ひとりからは強烈な個性が感じられなかったが、そもそも群衆にスポットが当てられたオペラだとするならば、それも仕方がないだろう。タイトルロールを演じたスケルトンは、海の男らしく荒々しさがよく出ていた。また、アーンティ役のC・W・ロジャースもいい味が出ていた。「ああ、そういやイギリスで見かけるな、ああいうオバチャン」という印象を抱かせただけでもグッド・ジョブだ。
 
 
 前シーズンはローエングリンで有終の美を飾り、今シーズンもいきなり素晴らしいプロダクションで好スタートを切った新国立劇場
 だというのに、私の次の予定は来年の5月までありません。もう半分終わり(笑)。楽しみといったら、来年1月末頃に行われる13-14新シーズンの演目発表のみ。やれやれ、なんてこったい・・。