先月に訃報を聞いてからずっと書きたいと思っていて、ようやく記事にすることができた。
私の自慢はザンデルリンクを生で聴けたことだ。たった2回だけだったが、まさに衝撃的だった。その時受けたインパクトはとてつもなく大きく、今でも忘れられない。おそらく一生忘れないだろう。ゆえに、私にとってザンデルリンクは特別な指揮者なのである。
一つは1990年2月、読売日響の定期公演。プログラムはベト1とブラ1。この公演の思い出については、今年の1月に記事に書いた。
もう一つは1998年12月、ベルリン州立歌劇場で聴いたシュターツカペレのコンサートで、プログラムはブルックナー4番ロマンティック一曲のみだった。なぜ一曲のみだったかというと、この日は12月31日で大晦日ジルベスターコンサート、パーティー付の特別公演だったから。(ちなみにこの日、ベルリン・フィルのジルベスターコンサートと掛け持ちハシゴした。)
‘衝撃的’と上に書いたのは、両公演とも、とにかくこれまで自分が聴いて知っている音色とは全く異なる、既成概念を覆すような独特の響きだったからである。
読響を聞いた時、指揮者によってオケの音、響きそのものが変わるということをこの時生まれて初めて身を持って体験した。ベルリンの時は、これまで実演や録音で何度も聞いていたロマンティックと全く違う響きに大きなショックを受けた。突然目の前が漆黒に包まれ、やがて重くて強力な磁力に吸い込まれていくような、そんな体験だったと記憶する。
あの響きは、「ここはもっとこうしてください。こういうイメージで演奏してください。」なんて口で指図して出る音じゃない。厳しい時代を生き抜き、堅物コワモテの顔のシワに刻まれた経験と歴史がそのままオーラになって、楽団員に伝播するのだと思う。