クラシック、オペラの粋を極める!

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2011/3/13 フィレンツェ歌劇場 トスカ

 日曜日。首都圏では交通網もほんの束の間正常を取り戻し、朗らかな陽気と相まって、街角ではいつもと変わらない日常の姿が垣間見えた。
 
 フィレンツェ歌劇場の引っ越し公演、初日。
 
 開催できるのかどうか、開催すべきかどうか、主催者は相当気を揉んだのではないかと察する。
 
 幕は開いた。
 
 よくぞ開いたと思う。
 
 まず、指揮者、ソリストの歌手や、オーケストラなど、遠路はるばるやってきた外来演奏陣、よくまあ上演の方向でまとまったものだと感心した。
 直接的な被災ではなかったとはいえ、首都圏もかなり揺れた。テレビでは全てのチャンネルで地獄絵巻が伝えられている。言葉の通じない異国で、連中は想像を絶する恐怖を味わったはずである。だれもが「これは尋常ではない」と思ったに違いない。
 そうした時、彼らイタリア人は、個を押し殺し、黙して周囲に従うような人種ではない。少なからずの人間が「中止して即刻帰国すべきだ」と声を上げたであろうことは容易に想像がつく。ザッケローニさんも帰っちゃったしね。
 
 にも関わらず上演の運びとなったのは、彼らの誇らしいプロフェッショナル精神によるものなのか、主催者が必死になだめすかして何とか無理やり上演にこぎつけたのか・・・。いや、きっと、日本側スタッフの上演に向けた凄まじい尽力と献身の姿が彼らの心を打ったに違いない。
 
 上演に先立って、マエストロ・メータ氏がマイクを握った。
「被災された方々に心よりお見舞いを申し上げると同時に、開催できたことを受けて、来場されたお客様、スタッフ、演奏者全てに感謝します。」みたいな内容だった。
 立派なスピーチだった。拍手が沸き起こった。だが、私は全員を起立させて黙祷を捧げても良かったのではないかと思う。スポーツイベント等において、時々開始前にこういった黙祷のシーンを見かけることがあるが、非常に感動的である。また、ロビーで支援募金をお願いしても良かったとも思う。
 
 少なからずの観客動員に影響するかと思ったが、会場は比較的埋まっていた。もちろん空席はあったが、もともと完売公演ではなかったので、影響によるものかどうかは不明である。
 
 私が一番危惧していたのは、演奏中に余震が来て場内がグラっと来ることだった。演奏は直ちにストップしてしまうだろう。その後、落ち着きを取り戻して上演が再開されたとしても、演奏者は100%の実力を発揮できないかもしれない。幸い、そういうことはなく、無事に上演は終了した。
 
 神奈川県民ホールは、上階のロビーのガラス越しから横浜の港と海を見渡す眺望を楽しむことが出来る。のどかで美しい光景。信じられない。突如として、大自然は牙を向く。その時人間は為す術も無く、目を覆うかのような惨事を前にして、ただ呆然と立ち尽くすのみ。休憩時間中、静かな港と海をぼーっと眺めながら、しばし東北地方の惨劇と被災者に思いを馳せた。こんなところで趣味を楽しんでいて申し訳ないと心の中で詫びた。
 
 
 今回については、演奏の中身についての云々コメントは書かないことにする。メータ氏のスピーチと同じく、ただただ被災者にお見舞いの意を捧げ、上演を成功させた演奏者とスタッフ一同に感謝しようと思う。
 
 
2011年3月13日  フィレンツェ歌劇場
プッチーニ  トスカ
指揮  ズービン・メータ
演出  マリオ・ポンティッジャ
アディーナ・ニテスク(トスカ)、マルコ・ベルティ(カヴァラドッシ)、ルッジェーロ・ライモンディ(スカルピア)、アレッサンドロ・グエルツォーニ(アンジェロッティ)   他