ヴェルディ 椿姫
指揮 ジャナンドレア・ノセダ
演出 ローラン・ペリー
最初から最後までナタリー・デセイに釘付けだった。オペラグラスで覗き込んでいた時間の多かったこと!
歌手によっては歌唱を優先するあまり、アリアで棒立ちになってしまう人がいるが、デセイに関してはそんなことはあり得ない。彼女の表現手段において、演技と歌はどちらが優先されるでもなく同等なのだ。重要なのはドラマの必然性。そこに必然があれば、演出上の要求すべてを受け入れる。日ごろからそういうトレーニングを積んでいるのだろう、動きながら、あるいは寝そべりながら歌うことが苦になっていない。
つまり、彼女は女優なのだ。歌手ではなく、飛び切り上等に歌える女優。
演出家ペリーが、そんな彼女の演技を想定した振付をし、舞台を作ったことは一目瞭然。舞台に並んだ箱のような台は、あたかもスポットライトを浴びるためのステージのようだ。高さも大きさも違うそれぞれの台を飛び越えながら移るたびに、異なるステージを渡り歩く女性の生き様が表出される。それは波乱万丈のヴィオレッタの人生そのものなのだ。
この日もノセダの指揮は絶好調。最終日ということもあってか、さらにタクトがパワーアップし、唸り声も炸裂。こんなにも用意周到に準備を整え、本公演に全力投球してくれて、観客の我々はただただ感謝に堪えない。