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2010/10/9 マイスタージンガー

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2010年10月9日  ベルリン・コーミッシェオーパ
指揮  パトリック・ランゲ
演出  アンドレアス・ホモキ
トーマス・トマッソン(ハンス・ザックス)、ディミートリー・イヴァシュチェンコ(ポークナー)、トム・エリック・リー(ベックメッサー)、マルコ・イェンツシュ(ヴァルター)、イーナ・クリンゲルボーン(エヴァ)、トーマス・エベンシュタイン(ダーヴィッド)、カロリーナ・グモス(マグダレーネ)   他
 
 
 公演の感想の前に、その前段のお話。
 偶然だが、ドイツ国内で、この日10月9日(土)午後5時開演でマイスタージンガーが上演される都市がベルリンの他にもう一都市あった。ライプツィヒである。
 いわゆる歌劇場の格なら、ベルリン第3の歌劇場よりもライプツィヒの方が上かもしれない。また、ライプツィヒはこの日が新演出のプレミエ(初日)だったし、主役ザックスは名歌手ヴォルフガング・ブレンデル。更には、前日に滞在していたドレスデンからも近い。
 ということで、私も当初はベルリンではなく、ライプツィヒマイスタージンガーを狙って計画を練っていた。
 
 ところが厄介な問題があって、翌日10日(日)の午後2時30分にはパリ・オペラ座が控えていた。
 ライプツィヒからベルリンに移動し、飛行機でパリに飛ぶという移動スケジュールを同日午前中に全てこなすのは時間の余裕的に至難の業であったことから、仕方なくライプツィヒを諦めたのであった。
 
 だが、全ての行程をFIXし、飛行機もホテルもオペラチケットも全部手配を終えたところで、とある事実に気づく。ライプツィヒから直行でパリに飛ぶ飛行機があったのである。私は「ベルリンを経由しないとパリに飛べない」という固定観念に完全に縛られていた。「あっちゃ~」と思ったが、時すでに遅し。
 そういうことで、「ライプツィヒの方が良かったなあ・・」という後悔の念を抱きながらのベルリンであった。
 
 もっとも、劇場に到着すれば、いつものワクワク感が湧き上がって、ライプツィヒのことなんか頭から抜ける。有名な前奏曲が始まったら、あとはもう耽美なワーグナーの調べに身を委ねるだけだ。
 
 
 同じ市内に世界的な歌劇場が二つもあって、それほど予算も潤沢でない三番目の歌劇場が、存在感を示し、割って入って勝負しようとするのならば、それは当然のことながら同じことをやっていてはダメで、何らかの工夫をしなければならない。コーミッシェは画期的な演出を採り入れ、活きのいい若手を登用してその存在感をアピールしながら独自路線で生き残ってきたユニークな歌劇場である。今回のマイスタージンガーも、当劇場のインテンダント兼主席演出家のA・ホモキの演出によって、極めて演劇的で隙のない舞台に仕上がった。
 
 ご覧の写真のとおり、舞台装置はニュルンベルクの街並みに見立てた家々のブロックで、これを人力で動かし配置しながら場面を変え、整えていく。今年の新国立の影のない女でも同様だったが、いわゆる‘よくやる’手法だ。
 登場人物は絶対に棒立ちにならず、常に演技をしている。立ち位置はころころと目まぐるしく変わる。
 
 この演出の最大の特徴は、登場人物の誰もが「特別な人ではない」ということ。例えば、マイスター(親方)たちは決して聖人ではない。保守的で頑固で、異分子(ヴァルター)に対して露骨に警戒心をむき出しにする普通のオヤジどもだ。同様にベックメッサーも、悪人でもなく滑稽でもなく、婚約したいと思っていたらそこに横やりが入って途端に焦りだす普通の男だ。焦るがゆえに手につかず、物事がうまく運ばない状況は我々もよくあることで、思わず「うんうんわかる、そうだよなあ」と唸ってしまう。
 ヴァルターにしたって、決してヒーローではない。彼はなんだかんだ言っても、単にエヴァと結婚したいだけで、別にマイスターになりたいわけでも何でもないわけだ。そんなヴァルターの魂胆はあっけなく見透かされ、最後は蚊帳の外に置かれてしまう。
 
このようにホモキが描く人間描写は実に鋭く、的を射ている。更に、ヴァルター役のマルコ・イェンツシュはかっこいいし、エヴァ役のイーナ・クリンゲルボーンもとてもきれいで、いかにも‘ドイツの若いお嬢さん風’(実際はノルウェー人らしい)なので、とにかく演劇を見るかのように物語にすっと入っていくことができ、本当に観ていて楽しかった。4時間半があっという間だった。
 
ところで、ライプツィヒのマイスターはどうだったのかなあ。
多分、へんちくりんな現代的読替演出で、さぞかし困惑したに違いない。きっとそうだ、うん。ベルリンで正解だったわけだ。よしよし。    と、無理やりそのように納得することにしました。