これまでのクラヲタ人生の中で、「しまった、見逃した、聞き逃した!」と後悔に苛まされている公演がある。
その最大の物が、もう20年以上も前に日本で上演された「マイスタージンガー」だ。この公演を逃したのは痛恨の極みであり、一生の不覚。悔しくて仕方がない。なぜなら、これ以上のキャストは望むことが出来ないくらいの「史上最強のマイスター」だったから。
昔からのオペラファンならすぐにお分かりだろう。1988年11月、バイエルン州立歌劇場の来日公演のことだ。
とにかくキャストがすごい。目ン玉が飛び出るくらいすごい。以下をご覧あれ、綺羅星の如く並んだスーパースター歌手の顔ぶれを。
指揮 ヴォルフガング・サヴァリッシュ
演出 アウグスト・エヴァーディング
ハンス・ザックス ベルント・ヴァイクル
ポークナー クルト・モル
ヴァルター ルネ・コロ
ベックメッサー ヘルマン・プライ
ダーヴィッド ペーター・シュライヤー
エヴァ ルチア・ポップ
今こうやって眺めてもため息が出る。これだけのオールスターが日本に一堂に集結したのだから驚きだ。これは事件と言っていい。
にも関わらず、私はこれをスルーしてしまったのだ。
なぜ!? いったいなぜなんだ!?
答えは単純。私はまだお子ちゃまだった。いや、年齢的には大人だったが、オペラに関して未熟者だった。ワーグナーのオペラの魅力に気づいておらず、マイスタージンガーは第一幕の前奏曲しか知らなかった。
ただそうは言っても、初心者としてオペラをぼちぼち見始めていた頃ではあったんだよねー。
もう一年早くオペラ道に入門していれば・・・。
もう一年来日公演が遅ければ・・・。
本当に残念無念。
(ちなみに会場はNHKホール。チケットは最高のS席が3万円、最低のF席が9千円。どなたか行った人います??)
「うわっ、しまった、行っておくべきだった」と、後の祭りでこの公演の重要性に気付くのに、そう時間はかからなかった。そりゃそうだ。オペラを見れば見るほど、その魅力にハマっていく。そうなれば、上記の上演がいかにスゴいかは誰でもすぐに分かる。
史上最強のマイスタージンガーを逃した悔恨は大きかったが、それによって学んだことがあった。
世界にはゴージャスな一流歌劇場が存在するということ。
そこを目指せば、極上のオペラが手を広げて待っているということ。
チャンスを逃さずに、自ら打って出る必要があること。
こうしてついに、オペラを見るための海外行脚が始まっていく。底なし沼に足を踏み入れる人生の転機が訪れたわけだが、バイエルンのマイスターを見逃したことがきっかけの一つであったことは否定出来ない。もちろんそれが原因の全てとは言わないが。(多分、見たら見たで、「もっと見たい」と世界に飛び出していったに違いない。)
このバイエルンの日本公演からちょうど2年後の1990年11月。私はウィーンに出掛けた。人生2度目のウィーンだったが、1度目は観光のみの1泊だけの滞在だったので、音楽鑑賞を第一目的にした実質的なウィーン訪問はここからスタートした。
で、その時に鑑賞した演目の一つが、他でもないマイスタージンガーだった。やはり、心のどこかに「取り返したい」という気持ちがあったのだろうなと思う。
この時のキャストは以下のとおり。
指揮 サー・コリン・デーヴィス
演出 オットー・シェンク
ハンス・ザックス ジョセ・ファン・ダム
ポークナー マッティ・サルミネン
ヴァルター ルネ・コロ
ベックメッサー ゴットフリート・ホルニック
ダーヴィッド ウィンフリード・ガームリッヒ
エヴァ ルチア・ポップ
バイエルンの来日メンバーと比べると、上回るとはいかないが、十分に魅力的と言えるだろう。さすがはウィーン。公演はもちろん素晴らしく、感激したが、「多少なりとも取り返すことが出来た」という感慨が少なからず沸き起こったことを覚えている。
「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。以上のとおり、私にとって、私の人生において、極めて重要で意味のある作品。と同時に、とっっっても罪深い作品でもある(笑)。