クラシック、オペラの粋を極める!

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2010/9/20 ROH マノン

2010年9月20日  英国ロイヤル・オペラ・ハウス  東京文化会館
マスネ  マノン
演出  ローラン・ペリー
アンナ・ネトレプコ(マノン)、マシュー・ポレンザーニ(騎士デ・グリュー)、ラッセル・ブラウン(レスコー)、ギー・ドゥ・メイ(ギヨー)、ニコラ・クルジャル(伯爵デ・グリュー)   他
 
 
 今回のロイヤルオペラハウス(ROH)来日公演、椿姫の方は大変なことになっちゃったらしい。(※)
 だが、私は最初からマノン一本に絞っていた(椿姫は全くのアウトオブ眼中)ので、この‘マノンだけ’を基準にしてROHの真価について判断しようと思う。(そこんとこ、よろしく)
 
 (※ 主役ゲオルギューがキャンセル、代役も不調で降板するという不測の事態が発生した模様。さらに、明日の最終日は、ネトレプコが緊急登板するとのことで、それはそれで、前回までの鑑賞者は納得いかないでしょうねえ。)
 
 その結果であるが、「さすが」であった。世界トップ歌劇場の一つという看板はダテではなかった。
 
 もちろんこの成功は、オペラ界最大のアイドルであるアンナ・ネトレプコに支えられたのは事実かもしれないし、要因の一つではある。だが、要因の一つでしかないし、そもそもネトレプコを堂々と連れて来られること自体がトップ歌劇場たる所以だ。
 最近はビッグネーム一人を客寄せパンダに仕立てて格を見せ掛け、体裁を整えるという眉唾引っ越し公演も見受けるが、そういうのとは明らかに一線を画している。
 
 ではそんじょそこらと何が違うかと言えば、個々の高い「質」が積み重なった総合力の差、ということだろう。例えて言うのなら、オペラは陸上の十種競技みたいなものである。短距離だけめちゃくちゃ早くてもこの競技では勝てない。ちなみに、十種競技勝利者は、「キング・オブ・アスリート」として称えられる。まさに世界トップクラスの歌劇場とはそういうものなのだ。
 
 ROHの話に戻ろう。
 今回のマノン、上記のとおりソリスト、演出、指揮者、オーケストラ、舞台美術すべてが高いレベルに保たれていた。
 中でも素晴らしかったのは、伴奏部分では黒子に徹し、主張するところでは堂々たる音を出し、感情的な場面では揺さぶるような音色を紡ぎ出して音楽全体をリードしたオーケストラの存在であった。ピットの中と舞台の上との絶妙な距離感。付かず離れずの寄り添い感。もう、見事としか言いようがない。
 
 もちろんそれを操ったのは指揮者パッパーノ自身に他ならない。だが、パッパーノじゃなくても、いつでもどこでも誰であっても、あれくらい出来ると思わせるオケの実力。これこそが伝統の力であり、老舗の力であり、一流の為せる技だ。
 
 ローラン・ペリーの演出もなかなか味わい深い。個人の振り付け、集団の振り付けそれぞれが高いレベルで施されていて、それを出演者が難なくこなす。ぎこちなさがないので安心して見てられるし、感情移入も容易だ。さりげなくベル・エポック調に仕立てられていて、あたかもロートレックの絵画を見ているようだ。
 
 最後に(最後でいいのか?)、ネトレプコ様について。
 スターです、この人。間違いない。歌と演技の両方で観客の目と耳を釘付けにする。彼女が登場すると、お客さんが一斉にオペラグラスを掲げ、食い入るように覗き込む。
 修道院に入れられようとする世間知らずの少女を演じる時のあどけなさ。デ・グリューと愛を交わす時の一途さ。社交界にのし上がり、華美に浸って有頂天になる時の美しさと高慢さ。それらの役すべてで光沢を放っている。
 
 サンクトペテルブルグ劇場での下積みを経て、今や絶頂となって光り輝くネトレプコ。マノンのように、栄華を謳歌しすぎて道を誤って転落しませんよう、お祈り申し上げます(笑)。とりあえず、今ぎりぎりセーフのウェイトがこれ以上オーバーしませんように。
 
 あ、おおきなお世話でえらいすんまへん。