クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2018/9/16 ローマ歌劇場 マノン・レスコー

2018年9月16日   ローマ歌劇場   神奈川県民ホール
指揮  ドナート・レンツェッティ
演出  キアラ・ムーティ
クリスティーネ・オポライス(マノン)、アレッサンドロ・ルオンゴ(レスコー)、グレゴリー・クンデ(デ・グリュー)、マウリツィオ・ムラーロ(ジェロンテ)、アレッサンドロ・リベラトーレ(エドモンド)   他
 
 
ローマ歌劇場来日公演の二演目は、共通する事項が存在している。
すぐにお分かりだと思うが、両方とも主人公が「転落する女性」だということ。
(病気で倒れるヴィオレッタを「転落」と扱っていいのか若干疑問が残るが、タイトルが「道を踏み外した女」なのだから、仕方がない。)
あとは、「パリ」というのが舞台の場所の一つになっているのもそう。
 
今回の来日演目を何にするか決めるにあたり、予めテーマを探り、共通項目に着目したのだとしたら、それはローマ歌劇場が来日公演のコンセプトについて、一つの明確な主張をしたということ。
そして、こうした旗印を掲げるのは、文化の発信基地である劇場として、とても重要なのだと思う。
(あくまでも、予めコンセプトが存在していたら、の話ね。実際は知らんよ。案外たまたま偶然だったりして(笑)。)
 
テーマがあったにせよ無かったにせよ、いずれにしても本場イタリアからこの作品を持ってきてくれたことに感謝したい。それなりに知られている曲だが、実際のところ日本での上演数は決して多くない。もっともっと聴くチャンスが増えてほしい作品だ。ストーリーはさておき、プッチーニ流の熱情的で甘美な旋律に溢れた、魅力的な音楽だからだ。
 
何日か前の記事に、「最大の期待はマノン役のオポライス」と書いた。
登場するとスポットライトが差し込むかのように輝くスター歌手。(ま、美人だし・・。実際照明でスポットライト当ててたし・・。)
第一幕は、ちょっと慎重な感じがした。役の初々しさを出すためにあえてそのように歌ったのかもしれない。
だが、第四幕の死に際の歌唱は圧巻だった。会場全体が彼女の渾身の歌に固唾を飲んで聞き入っていて、その張り詰めた緊張感がすごかった。
(今回「オペラを観たい」という初心者と一緒に行ったが、「死ぬかと思ったらムクッと立ち上がって、あんだけ歌うか!?」と真顔で言っていた。バカモン、オペラとはそういうものじゃい。)
 
デ・グリューのクンデも貫禄の歌唱だ。声に威容が備わり、英雄的。オテロって感じだね。決して若々しくはないが(笑)。
(ここでも初心者氏は「マノンに上から抱きつく姿が、布団が丸ごと覆いかぶさってるみたいだった。」と言ってた・・。はぁぁ・・。)
 
キアラ・ムーティの演出も、センスがキラリと光った。
舞台の背後に砂漠を見せることで、悲劇の運命を暗示させていることは一目瞭然。
第二幕では、マノンを退廃的なブルジョア生活に溺れたバカ女ではなく、ショーウィンドウのマネキンのように扱われていることに抵抗を示す意志のある女性に仕立てていたのも、いかにも女性らしい視点だと思った。
 
この舞台を見て、キアラ・ムーティ氏が「リッカルド・ムーティの娘」というネームバリューを使わずとも、演出家として示す実力を持っていることがよく分かった。
御本人は女優だそうだが、そうしたキャリアよりも、スカラ座で活躍した名演出家(ゼッフィレッリやストレーレル、ロンコーニ、ピッツィなど)の舞台を若い頃から見てきて、その影響が演出家としての大きな糧になっているのではないかと思った。きっとそうだ。