クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2009/12/17 パリ1

 12月17日午前9時30分。変更振替便は予定の時刻ぴったりに成田を離陸した。

 余裕でアムステルダムに着くはずだったのに、フライトが翌日に変更になった以上、アムスで観る予定のオペラに間に合うためには、いくつかのスケジュールの運行が全て厳密でなければならない。

 具体的に言うと、(1)成田発パリ行き便が遅れることなく出発する、(2)パリ・シャルルドゴール空港で、アムステルダム行きへの飛行機の乗換えがスムーズに行く、(3)アムス行き便が遅れることなく出発する、の3つ。
 これらが全て順調に整うのは、他の航空会社なら問題ないかもしれないが、エールフランスの場合ははっきり言って「運」が必要だ。

 とりあえず、まず,魯リアし、安堵。飛行機は順調にパリに向かっていった。


 出発してからからちょうど5時間くらい経過したところで、最初のトラブルが発生した。
 急病人が出たのだ。
(急病になった方はお気の毒様で、その方に対して「トラブル」という言葉を使用するのは良くないかもしれないが、あえてそう言わせていただく。)

 客席内に「お客様の中で、お医者様か看護士の方はいらっしゃいませんか?」のアナウンスが流れた時、私の危機察知機能が敏感に反応した。嫌な予感がした。

 その嫌な予感は見事(?)的中する。
 急病人の病状が改善しないため、機長らが検討した結果、緊急着陸し、病人を途中の都市で降ろすことになった。その間当然、最低でも二時間くらい時間をロスすることになろう。

 ここで私のネザーランドオペラ・プッチーニ「西部の娘」鑑賞はあっけなく夢と散った。私は座席で頭を抱え、「あ~あ」と深いため息をついた。私の「炎のオペラ小僧ツアー」計画はここで早くもとん挫してしまったのだ。

 緊急着陸したのは、なんとロシア・サンクトペテルブルグ。私がまだ行ったことが無くて、そして「いつかは行きたい」憧れの都市。

 サンクトペテルブルグに飛行機が着陸するやいなや、機内にロシア人の医師と看護士がどかどかと乗り込んできた。この人達がもう本当に「ロシア人!!」という顔をしていて、「うわー、ここは本当にロシアなんだあ」と変に感動してしまった。特に女性看護士の一人が、マリア・グレギーナ(ソプラノ)にそっくりだった。
 いつでも病人を運び出せるように、飛行機のドアを開けっ放しにしていたが、そこからロシアの冷たい空気がどんどん流れ込んできて、一気に機内が冷蔵庫、いや、冷凍庫と化す。外はマイナス15度だそうだ。ううっさぶっ。

 約1時間半くらい滞在し、無事に病人を降ろして再びパリへ向けて離陸。フライトアテンダントによると予定の到着時刻を2時間ほど遅れるという。そうなると、私の乗換便も当然間に合わず、パリで接続便の再調整をしてもらわなければならない。

 午後4時、パリ着。
 もともと私が乗る予定だった3時45分発アムス行きの飛行機は当然飛び立ってしまったのだろうな、と思ったら・・・。

 なんと、まだ離陸せずにいた。出発が大幅に遅れているとのことだ。

 この日、パリは雪。天候のせいで、朝からスケジュールがほぼ全便にわたって乱れに乱れており、軒並み2時間から4時間の遅れ。私のアムス便は午後7時出発に変更されていた。

 つまり、急病人トラブルが発生しなくても、どっちにしてもアムスには予定通りに到着することが不可能だったわけだ。はっはっは。もう笑うしかないね。クソめ。

 ふと運行掲示板を見ると、正午発の便が4時間遅れでちょうど今ボーディング手続きのの真っ最中。今からこれに乗り換えさせてもらえないかな、と一瞬考え、すぐに「そうしたら、預け荷物は間違いなくロストだな」と気づき、思い付きを否定した。

 午後7時にパリを出発すると、アムスには約一時間後に到着。市内には午後9時半くらいか。

 うまくいけばひょっとして辛うじて「西部の娘」の第3幕には間に合うか、いや第3幕だけ観たところで、感動を得られるどころかかえって悔しさが滲み出てしまうかな、そもそも7時のフライトが更に遅れる可能性も十分あり得るな、なんてぼーっと考えながら、目で運行の電子掲示板を眺めていたら・・・。

 突然、私のアムス便の案内表示が電子掲示板から消えた。本当に消えた。忽然と。しばらくすれば復活するかと思ったが、いっこうに表示されない。

 普通、キャンセルならキャンセルできちんと案内表示されるはずだ。それが表示自体が消えるなんて・・・。

 私は悟った。

 これだけ異常事態が続くということは、何か悪いことがあるのだ。きっと「アムスには行ってはいけない」という虫の知らせに違いない。

 私のスケジュールは、アムステルダムでオペラを観、一泊だけした後、翌日は、今、立っているこの地、パリに移動するのだ。
 オペラも観られないのにわざわざ夜遅く、泊まるだけのためにアムスに行き、翌日朝早くパリに戻る-これはばかばかしいし、また次のトラブルに巻き込まれかねない。

 私は決断した。今日はアムスに行かない。パリに泊まる。アムス行きの飛行機はキャンセルだ。

 私はトランスファーデスクに行った。人でごった返している。我々だけでなく、多くの乗客がトラブルに巻き込まれているのだ。
 幸い私は、エールフランスのゴールド会員だったため、専用デスクで待ち時間を短縮できた。それでも30分くらい立ちんぼだったが。

 係員は懇切丁寧にキャンセル手続きをしてくれた。預けた荷物については、別の場所にあるバッゲージサービスカウンターに行けとの指示。
 言われるとおりにバッゲージサービスカウンターに行くと、そこでも長蛇の列。いらいらが募る。

 担当者に事情を説明し、直ちに荷物を引き取りたいと話すと、「それは無理」との答え。
「は??なぜ?ホワ~イ??」
担当者曰く「テクニカルプロブレム!」であると。テクニカルプロブレムというのが何の意味であるのかは理解不能。とにかく宿泊のホテルに荷物を届けるので、宿泊先を教えてほしいとのこと。

 急にパリに泊まることになったため、本日のホテルは未決であるが、明日ならホテルが予約済みで決まっている。そこのホテルの名前と住所を告げた。同時にその担当者に「くれぐれも荷物をオランダに運ばないで欲しいこと」、「明後日にはパリを離れるのでとにかく絶対に明日中に指定のホテルに届けて欲しいこと」を伝えたところ、担当者は「OK」と回答した。

 こうして私は、パリ市内に入り、明日チェックイン予定のホテルに行って、「一日早く来ちゃったが、二泊という事で泊めて欲しい」と頼み、そこに泊めてもらうことになった。「エールフランスから私のバッグが届くと思うので、しっかり預かって欲しい。」とも伝えた。


 寒波が欧州を襲ってきたようで、パリもめちゃくちゃ寒い。都会のアスファルトのため雪は高く積もらないが、ぐちょぐちょ状態。

 アムスでオペラを観られなかったのは本当に残念だが、急遽パリに泊まることにしたのは、我ながら正解だと思った。間違いなく明日はパリ・オペラ座のオペラを観られるわけだし、移動が無い分、観光だってできそうだ。アムスのことはとにかく忘れよう。嫌な思いを引きずるのをやめよう。そして、気分を一新してパリを楽しく過ごそう。

 こうして長い一日が終わった。

 だが・・・トラブルはこれで終わりではなかった。


 続く。