クラシック、オペラの粋を極める!

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2009/9/20 パリ ヴォツェック

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2009年9月20日 パリ・オペラ座  バスティーユ劇場
アルバン・ベルク  ヴォツェック
指揮 ハルトムート・ヘンヒェン
演出 クリストフ・マルターラー
ヴァンサン・ル・テシエ(ヴォツェック)、ステファン・マルギータ(鼓手長)、ハヴィエル・モレノアンドレス)、アンドレアス・コンラード(大尉)、クルト・リドル(医者)、ワルトラウト・マイヤー(マリー)、ウルスラ・ヘッセ・フォン・デン・シュタイネン(マルグレート) 他


 11月の新国立劇場で上演されるヴォツェックで、逝去された若杉さんのピンチヒッターで登場するのがヘンヒェン。まさか連続してヘンヒェンの指揮する同演目を聴くことになろうとは。

 今度の新国立もなかなか良いキャストだが、それでもさすが名門パリだなと唸らせるのが、おそらく‘現在マリーを歌って右に出る者なし’と言って良い世界的名歌手のW・マイヤーの出演だろう。
 新国立でマリーを歌うウルセラ・うんたらかんたら(名前長すぎ!)さんが、このパリだと脇役のマルグレートになってしまうんだもんなあ。
(と言いつつ、ウルセラさんのマリーも期待できますよ。私は一昨年にリール(仏)で彼女のマリーを聴いたが、とても良かった。)

 さてそのマイヤーであるが、やっぱりさすがであった。音楽が体に染みこんでおり、ちょっとやそっとの演技演出でぶれることがない。ここぞという時のパワーみなぎる歌声は、欧州では屈指の大きさを誇るバスティーユ劇場の隅々にまで響き渡る。

 指揮者のヘンヒェンは、ベルクの複雑に絡み合った難解な音楽を丁寧に紐解いてみた結果、見事に整理され、驚くほど分かり易くなって聞こえてきた。まるで数学の難問を理路整然と解析し、丁寧に解説してくれる教師のようだ。これなら現代オペラに二の足を踏む新国立のファンの方々も、アレルギーを起こさなくても済むのではないか。

 問題は演出だ。(やれやれ)

 現行のバイロイトの‘トリスタンとイゾルデ’を演出している人だが、日本では馴染みが薄いため、なかなかどんな演出をするか想像つかないと思うが、まあ一言で言うと「へんちくりん」だ。

 私もこの人の舞台は、同じパリで「カーチャ・カバノヴァ」を見ただけ、後は上記のバイロイトのレポート記事写真を見たくらいだが、共通しているのは舞台が室内などの閉ざされた空間であること。多分、‘密閉された中での人間の虚無感’を表現しようとしているのだと思う。

 そのコンセプトはいいし、ヴォツェックの物語展開にマッチしそうだが、それを「どこにでもある現代の日常社会」にいったん置き換えてしまうため、とたんにこのオペラが持つ悲劇性が色褪せてしまう。

 ヴォツェックが破滅してしまうのは、「貧困」という社会問題が根底にあるからで、貧困が見あたらないマルターラーの舞台では、マリーの浮気は単に「毎日がヒマで欲求不満を抱えた主婦の出来心」でしかない。そんなでは、音楽ともそぐわないし、観客に訴える力が急速に衰えても仕方がないだろう。

 一般的に現代演出に肯定的な私であるが、今回のヴォツェックに限っては「音楽」のみ評価したいと思いました。